皆さんの会社では、自社サーバの管理・運営に必要な経費を固定費や単なるコストと考えているかもしれません。ハードウェアの初期投資や維持費だけでなく、人件費や手間も無視できません。それなら「サーバ運用にかかるコストは極力抑えたい」というのが本音のはず。
いま、Amazon Web Services(AWS)が注目を浴びています。国内ではトップクラスのサービス、そしてなにより安価なAWSは、特に中小企業にとっての自社サーバ問題を解決してくれる大きな選択肢になりえます。
しかし、「AWSは気になっているけれど分からない」「クラウドサーバは不安」、そんな方もいらっしゃるでしょう。翔泳社では11月12日(木)、AWSの導入をお手伝いする解説本『AWSクラウドサーバ構築ガイド コストを削減する導入・実装・運用ノウハウ』を刊行しました。
今回、AWSに興味がある方のために、著者・中村義和さんにお話をうかがいました。2005年にホームページ制作会社のアロマネット株式会社を立ち上げた中村さんは、普段の仕事でもAWSをお客さんに勧めることが多くなったそうです。AWSを使うメリットとはどういうものなのでしょうか。
AWSをもっと多くの人に知ってもらいたい
――よろしくお願いします。最初に、中村さんの経歴について教えてください。
中村:私は1994年からインターネット関連の仕事に携わっていました。いまのアロマネット株式会社を作ったのは2005年ですが、今年は2015年。そろそろ四半世紀ですね。年齢も50を超えていますし、超ベテラン(笑)なので、いろいろ経験を積まさせていただきました。
アロマネットで行なっているホームページ制作の仕事の中で、最近のサービスであるAWSを使う仕事が増えてきました。AWSを知らないお客さんに提案しても好評をいただきますし、私自身も非常に合理的で使いやすいサービスだと感じています。そこで、より多くの方にAWSを知ってもらいたいと考えて、本書の企画を担当編集の宮腰さんに提案しました。
AWSを使う大きなメリットはブランドと低コスト
――ほかのサービスもある中で、中村さんがAWSに辿り着いた理由は何だったのでしょうか。
中村:人間が繰り返し行なうようなことは、なるべくコンピュータに任せて、いかに人間がラクをできるのかを考えることが私の発想の根本にあります。AWSもその一つかと思います。もっとラクできないかなぁ……と調べていたら、最終的にAWSに辿り着いた、って感じでしょうか。AWSでは、ほとんどすべての設定をワンクリックでできてしまいますし、しかもそれがブラウザ上で可能。あると便利だなぁ、と思っていたものが、あるんですよ、AWSには。
AWSの一番の魅力は、Amazonというブランドじゃないでしょうか。Amazonがショッピングサイトであるという認識は多くの方が持たれているかもしれませんが、AWSではそれと同じシステムをクラウドサーバとして利用することができ、自分のホームページやサービスを作る。これを知らない方々はきっと多いのではないかと思います。
全世界に基盤施設を展開しているので、プラットフォームとしてとても巨大です。セキュリティを重要視する大手企業でもAWSを使われていますから、Amazonに対する安心感、信頼できるサービスとしてAWSがあるということをまずは知ってもらいたいですね。
また、ホームページを「売上を上げるツール」として使いこなせている企業は実際のところ少ないのではないでしょうか。やっぱりコストや広告費として見ていることが多いと思います。だったらコストは下げたい、と考えるのが普通です。AWSは使った分だけ使用料を支払う従量課金制ですから、ちゃんと見直せば、コストダウンも可能です。
極端な話、使った時間帯の分だけ料金が発生します。通常のレンタルサーバだと1か月いくらというサービスが用意されています。たとえ特定の時間帯しか使わない、と分かっていても、割引になることはありません。アクセスのピークを考えてサーバ5台分を借りたとしても、ピーク以外は持ち腐れですよね。AWSならピーク時にも自動で対応してくれて、ピーク時に増えた分だけ料金が発生します。
仮にいまのサービスで満足されていたとしても、ITのツールというのはそんなに長期的に使えるものは少ないでしょうから、次に使う選択肢の一つとしてAWSがあるということを知ってほしいんです。
AWSの認知度はまだまだ低い
――中村さんの会社に相談に来られる方で、最初から「AWSでやりたい」と持ちかけられる方は多くなってきているのでしょうか。
中村:まだ少ないです。というより、知らない方がほとんどです。我々のお客さんは中小企業の中でも従業員が100人以下の企業が中心です。AmazonがAWSを提供していることを説明すると驚かれます。IT系でない企業であればなおさらでしょう。
逆に、自分で調べてAWSに辿り着いたとしても、すぐには使いこなせないのではと思います。詳細な日本語のドキュメントが作成されたとはいえ、専門用語も多いですからね。また、説明が細かすぎるがゆえに分かりづらく、サーバ構築まで至らないケースもあります。そこで、我々がお手伝いするんです。お客さんとしては、そういうパターンが多いですね。
本書はAWSを知らない方への入門書
――本書はどういう課題を抱えた読者を想定していますか?
中村:一番は、先に挙げたような我々のお客さんを想定しています。AWSって何だろう、ちょっと聞いたけれど……という方です。AWSのサイトを見て説明を読むとは思いますが、専門用語のオンパレードで、しかもサービスの数と規模が大きいので概要を掴むことがまずたいへんです。そういうときに、本書を参考にしてもらいたいです。
「サーバとは何か」「AWSの基本機能」というところを押さえてもらって、そのうえでどれくらいコスト削減できるのかを実際に使って試してみてもらえるといいですね。そこまでいかない方もいるかもしれませんが、本書をざっと読めば概要は分かると思います。間違いなくサーバ運用コストも安くなると感じてもらえてもらえるはずです。
とりあえずAWSを試してみるのが理解の早道
――AWSの特徴はすなわちメリットだと思いますが、ほかのレンタルサーバや自社サーバと比べて、どういうところに特徴があるのでしょうか。
中村:例えば、いま使っているサーバから引っ越さなければならないときがあると思います。月々の料金を減らしたい、回線が遅くなってきた、容量が足りなくなってきた、機能を拡張できない、ハードウェアの耐久年数を超えたなど、何かしらの不満が出てきたときです。従来ならハードウェアを買い直し、サーバを引っ越さなければなりませんでした。システムの再構築も必要ですから、非常に手間のかかる作業になります。
ですが、AWSではCPUやメモリなどの変更がワンクリックでできます。クラウド仮想サーバですから、サーバを構築するためにハードウェアを買い揃える必要もありません。とにかく設備初期費用がかからないわけです。
「将来、事業規模を拡大するときに使いそうだから」といって最初からその分の設備を揃える必要がありません。事業規模や計画に沿って、少しずつアップグレードしていけばいいんです。AWSは簡単にハードディスクの容量を何倍にもできますから。そして必要なときに必要な分だけ料金を支払えばいいんです。
いきなりAWSに移行するのが不安な方に対しては、無料枠が用意されています。がっつり使うとその無料分は1か月で使いきってしまいますが、それでもお試しとしては充分です。大丈夫かな、どうかな、という不安をその1か月で試せるわけですね。予想外にお金がかかったのならそこでやめればいいですし、納得すればそのまま使い続ければいいですよね。
AWSが提供するサービスは、たくさん使おうが、ぴったり使おうが、ほかの会社のサービスに比べれば基本的には安くなると思います。それに、AWSは料金がどんどん下がっていっています。
Dropboxのように超大規模にAWSを使用する例もあれば、10MBしか使用しない企業もありますが、Amazonとしてはとにかく大量に売れば売るほどスケールメリットがあり、コストを下げていけるんです。AWSを使うことで、下手をしたら年間で1人分の人件費が浮くということもありえます。いまのところGoogleですら太刀打ちできないサービスでしょう。
AMIがサーバ構築をサポート、監視サービスも万全
――コスト削減のメリットは非常に魅力的ですが、実際にAWSでサーバ構築をするときに何かサポートはあるのでしょうか。
中村:普通はOSをインストールして、必要なアプリケーションを探してきて、さらに各ソフトの初期設定をして……と時間がかかりますよね。ですが、AWSにはAMI(Amazon Machine Image)という仕組みがあります。AMIは使用目的に合わせたソフトがすべてインストールされているテンプレートで、自分が使いたいAMIをコピーすればすぐにサーバ構築ができてしまうんです。
AMIにはプロフェッショナルが有料で作っているものもあれば、個人が提供しているものもあります。本書でも紹介しているWordPressやMovable Typeのサーバも、数分で構築できます。AMIはもともと用意されているものですから、使ってみてほしいですね。
――クラウドサーバということで、正常に稼働しているか、何かトラブルが起きていないか不安に思う方もいるかもしれません。AWSではどういうサービスで対応しているのでしょうか。
中村:CloudWatchというサービスが、サーバとは別に独立したサービスとして提供されています。サーバに問題が発生した場合に、メールなどで教えてくれます。自身で監視用サーバを構築する必要がありません。オフィスにサーバがあるわけではないので、サーバを監視することは絶対に必要です。
CloudWatchでは無料で使える枠(メトリックス)が10個あります。ですが、メモリをどれくらい使っているか、CPUの使用率はどれくらいか、ハードディスクはどうか、とサーバ1台でも複数使いますから、用途によっては10個では足りないかもしれません。とはいえ、とりあえず監視機能を試してみることができるのはいいですよね。
仮想サーバEC2のバックアップとしては、スナップショットをS3で保存することができます。過去のスナップショットをコピーすれば、一瞬で復元できてしまいます。AWSはサーバ構築から復元までをセットで考えているんですね。ちなみに、自分のサーバ環境をスナップショットで保存しておけば、それをAMIとして登録することもできます。
AWSを使わない手はない
――お話をうかがうと、なぜAWSを使わないのか疑問にさえ思ってしまうほどです。最後に、AWSを使いたくなってきたであろう読者にアドバイスをお願いします。
中村:AWSは、よく知らない、知っていても分かっていない、分かったつもりになっている、という方が多いと思います。ですから、本書を読んでAWSを理解したうえで、自分の会社で使えるかどうかを判断してみてください。
社内のサーバ10台を一気に載せ替える決断は大変だと思いますが、新しいサービスを始めるときはAWSでやってみてはどうでしょうか。いままでよりはコスト削減できるかもしれません。それをすべてのサーバに適用したら、もっとコストが下がる可能性を検討できるかと思います。もちろんほかにもさまざまなサービスがありますから、AWSがその中の選択肢の一つとして存在することを知ってもらいたいと思います。
AWSの東京リージョンは、アジアでは、一番最初に作られました。日本でのショッピングサイトAmazonにおける実績が大きく影響しているかと思います。これからも、ますます発展してもらい、もっと多くの方にAWSを使ってみてもらいたいですね。