セールスフォース・ジャパンは11月20日、年次カンファレンス「Agentforce World Tour Tokyo」の開催にあわせ、プレスおよびアナリスト向けに最新のビジョンとソリューションを解説するラウンドテーブルを開催。本会見は、同日開催された基調講演のフォローアップセッションとして位置づけられ、同社が提唱する「エージェンティック・エンタープライズ」の実現に向けた包括的な戦略が示された。
基盤となる「Agentforce 360」を日本市場での提供開始することに加えて、従業員体験を根本から変えるITサービスマネージメント(ITSM)へのアプローチが示され、人とAIエージェントが信頼性の高い単一のシステムで協働する未来像が提示された。
プロダクトマーケティングディレクターの前野秀彰氏は、企業AIの現状について、多くのプロジェクトがPoC(概念実証)から本番稼働に至らない割合が95%に及ぶ「活用の格差」を指摘。複雑な業務プロセスやデータの取り扱い、信頼性の担保がエンタープライズAI導入の大きな壁となっており、同社はCRMデータを含む「Data 360」を基盤に、この課題を乗り越え、すべてのアプリケーションをAIエージェント前提に変えていく方針を示した。前野氏は、この成果を結集したプラットフォームが「Agentforce 360」であると訴える。
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プロダクトマーケティングディレクター 前野秀彰氏
Agentforce 360に搭載された主要機能として、特にエンタープライズの信頼性を高める仕組みが強調された。Intelligent Contextは、PDFなどの非構造化データに含まれる複雑なグラフや表を、AIが構造を維持したまま読み解き、活用できるようにする機能。また、LLM(大規模言語モデル)の推論の「揺らぎ」を制御するため、Agent Scriptを用いてルールベースの処理とLLMの推論をハイブリッドで利用し、業務上の「必ず実行すべき手続き」を保証するという。Agentforce Voiceによる音声対応は、日本語で2026年2月を目途に提供開始する予定であると明かした。
プロダクトマーケティングディレクターの三宮健太氏は、ITSMの領域で従来の「チケット型」から「AIエージェントとの会話中心」への根本的転換を提唱。
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プロダクトマーケティングマネージャー 三宮健太氏
従業員はSlackなどの会話型インターフェースを通じて問題解決まで進むことができ、IT部門向けにはAIエージェントがインシデントの分析や解決策の提案といった25種類以上のアクションを実行できる。同社は、ITサービスだけでなく、人事や購買なども含めた「従業員サービスを統合管理する基盤」を目指しており、顧客中心の世界を「従業員中心の世界」に置き換える展望を示した。
プロダクトマーケティングディレクターの鈴木晶太氏は、Slackが「エージェンティック・エンタープライズ」を実現するための会社のOSになると説明し、部門を横断するあらゆる業務がSlack上でつながり、「組織のニューラルネットワーク」を形成すると述べる。この仕組みにより、従業員はコンテキストを切り替えることなく、エージェントと人間が協働できる環境が実現し、会話を通じて得られたコンテキストをAIが理解して最適な回答を提供するという。
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プロダクトマーケティングマネージャー 鈴木晶太氏
AIエージェントの信頼性確保のため、同社はフォワードデプロイメントエンジニア(FDEs)による伴走体制と、情報源を明確に提示するサイテーション機能、回答の正答率をAIが判断するテスト・モニタリングツールを製品に組み込むことで、ガバナンスを確保すると強調。同社の包括的なAI戦略は、企業にとってのAIエージェントを、単なるツールから信頼できるチームメイトへと昇華させる道筋を示した。
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小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
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