米現地時間3月29日、Gartner(ガートナー)は、2021年の政府関連向け戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10を発表した。
Gartnerが発表した2021年の政府関連向け戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10は、パンデミックによってもたらされた課題と、大きなディスラプション(破壊)に対応する柔軟なオペレーティング・モデルの必要性に起因しているという。
レガシー・システムの近代化の加速
政府機関は、何十年も前から使用されてきた古いインフラストラクチャや基幹システムが持つ制約やリスクに対処してきた。政府機関のCIOは、今後のディスラプションへの対策を強化するために、近代的なモジュール型アーキテクチャへの移行を加速させつつあるという。政府機関のCIOにとって、レガシー・システムの近代化が必要なことは、目新しい話ではないが、パンデミックに関連する課題によって、レガシー・システムを保持することで生じるリスクや、その近代化の必要性に対する意識が高まっているとしている。
2025年までに、政府機関の50%以上は、レガシー化した基幹系アプリケーションを近代化させ、レジリエンスとアジリティを向上させるとGartnerは予測している。
アダプティブ・セキュリティ
アダプティブ・セキュリティとは、常に進化するサイバー脅威を予測して緩和するための適応性の高い継続的なプロセスとして、リスク、信頼、セキュリティを扱うアプローチのこと。このアプローチの特徴は、予測、防御、検知、対応のコンポーネントであることです。従来のセキュリティ境界という概念をなくし、安全と危険の間には境界がないものとして、クラウド・サービスに移行する場合に必要な考え方の転換を図るという。
2025年までに、政府機関のCIOの75%は、IT部門以外のセキュリティについて直接責任を担うようになり、オペレーショナル・テクノロジやミッション・クリティカルなテクノロジの環境も対象になると予測されている。
サービスとしてのソリューション(XaaS)
XaaSは、サブスクリプション・ベースで、あらゆる種類のビジネス/ITサービスを取得するクラウド環境のソーシング戦略。パンデミックへの対応や、デジタル・サービス・デリバリの重要性により、レガシー・アプリケーション/インフラストラクチャの近代化へのプレッシャーがさらに強くなっているという。XaaSは、レガシー・インフラストラクチャの近代化に代わるものとして、拡張性をもたらし、デジタル・サービスのデリバリにかかる時間を短縮するテクノロジだとしている。
2025年までに、政府機関が新たに行うIT投資の95%は、サービス・ソリューションに投じられるという。
サービスとしてのケース・マネジメント(CMaaS)
ケースワークは、政府機関で一般的なワークスタイルであり、モノリシックなケース・マネジメント向けポイント・ソリューションであふれたレガシー中心のポートフォリオが多くの部署に見られるとしている。CMaaSは、コンポーザブル・ビジネス(レジリエンスと適応性に優れたビジネスの形態)の原則とプラクティスを適用することで、政府機関としてのアジリティを向上させる新たな手段だという。ケース・マネジメント用のレガシー・システムを、変化するビジネス・ニーズに応じて迅速に組み立て、分解、再構成できるモジュール型プロダクトに置き換えるとしている。
2024年までに、コンポーザブル・ケース・マネジメント・アプリケーション・アーキテクチャを導入している政府機関は、導入していない機関に比べ、新機能の実装が少なくとも80%速くなるという。
市民デジタル・アイデンティティ
デジタル・アイデンティティとは、市民が利用できる任意の政府デジタル・チャネルを介して個人のアイデンティティを証明する機能のことであり、政府サービスへの参加とアクセスに不可欠なものだとしている。デジタル・アイデンティティのエコシステムは急速に進化しており、政府機関は新たな役割と責任を担いつつあるという。このトピックは政治課題としても重視されているため、政府機関のCIOは、デジタル・アイデンティティを主要なユースケースに結び付ける必要があるとしている。
2024年までに、真にグローバルでポータブルな分散型アイデンティティ標準が市場に登場し、ビジネス、個人、社会、アイデンティティが不明なユースケースに対応するとしている。
コンポーザブル(組み換え可能な)ガバメント・エンタプライズ
コンポーザブル・ガバメント・エンタプライズとは、コンポーザブルな設計の原則を採用している政府機関のこと。コンポーザブルな設計の原則を取り入れることで、業務能力の再利用を拡大し、変化する規制や法律のほか、国民の期待にも継続的に適応できるようになるという。政府機関において、サービス、システム、データを管理するための既存のアプローチは縦割り化されており、発展途上のデジタル社会で急速に変化するニーズにうまく適応できない。こうした状況を打開するために、CIOはコンポーザブル・ガバメントを取り入れつつあるという。
2023年までに、政府機関にプロダクトやサービスを提供するテクノロジ企業の50%は、ビジネス・ケイパビリティ・パッケージを提供して、コンポーザブル・アプリケーションをサポートするようになるとしている。
プログラムとしてのデータ共有
データ共有は、多くの場合、一般化しにくい児童保護案件やジェンダー・バイオレンス(男女間における暴力)といった注目度の高いユースケースにおいて、政府機関内で一時的に行われる。プログラムとしてのデータ共有は、これを、再利用可能な多数の機能を備えた拡張性の高いサービスへと発展させ、政府サービスの提供において、よりコンポーザブルなアプローチへと促すという。
2023年までに、政府機関の50%は、データの構造/品質/適時性の標準を含め、データ共有のための正式な説明責任構造を確立するとしている。
ハイパーコネクテッド公共サービス
ハイパーコネクテッド公共サービスとは、政府機関全体で複数のテクノロジ、ツール、プラットフォームを利用して、可能な限り多くのビジネス/ITプロセスを自動化することだという。政府機関のCIOは、ハイパーオートメーションの原則とプラクティスを使用して、必要とする人間の介在を最小限に抑えた、ハイパーコネクテッドで高度に自動化されたエンド・ツー・エンドのビジネス・プロセス/公共サービスを開発できるとしている。
2024年までに、政府機関の75%は、機関全体を対象とする3つ以上のハイパーオートメーション・イニシアティブを開始または進行させているという。
マルチチャネルの市民エンゲージメント
2020年は、パンデミック、山火事、ハリケーンなどの災害に見舞われたこともあり、市民の行政への直接的な参加が大きく進展した。マルチチャネルの市民エンゲージメントは、組織の垣根を越えたシームレスで双方向のエンゲージメントであり、市民に好まれる最も効果的なチャネルを使用して、パーソナライズされたエクスペリエンスを提供することだという。
2024年までに、政府機関の30%以上は、エンゲージメント指標を使用して、政策や予算決定への市民参加の規模と質を追跡するとしている。
アナリティクスの運用化
アナリティクスの運用化とは、政府活動の各段階で、人工知能(AI)、機械学習、高度なアナリティクスなどのデータ・ドリブンなテクノロジを戦略的かつ体系的に採用して、意思決定の効率性、有効性、一貫性を向上させることだという。意思決定者は、より適切にコンテキスト・ベースで業務上の意思決定をリアルタイムに下し、市民エクスペリエンスの質を向上させることができるとしている。
2024年までに、政府機関がAIとデータ・アナリティクスに投じる投資の60%は、リアルタイムでのオペレーション上の意思決定や成果に直接影響することを目指すようになるという。
アナリストでバイス プレジデントのリック・ハワード(Rick Howard)氏は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックは、世界中の政府機関におけるデジタル・イノベーションの加速に拍車を掛けています。政府機関のリーダーには、データとテクノロジを活用して、公的機関の信頼性、アジリティ(俊敏性)、レジリエンス(回復力)を高める新たな機会がもたらされています。パンデミック関連の課題はしばらく継続するとみられますが、一方で、セキュリティ、コスト抑制、市民エクスペリエンスなどの分野における重要な課題に対応するテクノロジ・トレンドが新たに登場しています」と述べている。
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