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「強い」は脆い?―「弱さ」が生みだすレジリエンスとセキュリティ ― ロボット研究者、岡田美智男さんと

2016/03/08 06:00

 人を守る、子供を守る、地域を守る、社会を守る、日本を守る、地球を守る――さまざまな舞台で活躍する「守る」エキスパートたちに、デロイト トーマツ サイバーセキュリティ先端研究所 所長の丸山満彦さんがお話を訊きます。第2回に登場いただくのは、ロボット研究者、岡田美智男さんです。

「ひとりでできないもん!」弱いロボットの誕生

丸山 今日はロボット研究者の岡田さんということで、ロボットとサイバーセキュリティ、共通点を見い出せるかどうか、チャレンジングな対話です(笑)。まずは岡田さんの仕事を簡単に教えていただけますか。

岡田 僕は、もともとは音声言語処理とか、対話理解システムの研究をしていました。1980〜90年ぐらいですね、いまで言う人工知能の技術を使ってコミュニケーションといいますか、会話の理解、相手の意図を理解するとか、コンピューターと人との会話の研究をしていました。ところが、だんだん言葉を扱うのが大変になってきまして。

丸山 というと?

岡田 AIの冬の時代と言われた頃です。従来のAI技術ではなかなか人の言語を扱うことが難しい時期がありました。どういうことかというと、相手の意図やプランを理解することが難しいということがわかってきた。コミュニケーションというのは、相手の意図やプランを理解することだというように議論されていた時代があるのですが、どうもそれが難しいということで、AIの冬の時代になった、みんないろいろな分野に流れて行ったんですね。脳科学やいまで言うデータサイエンスの分野にいく人もいました。

丸山 岡田先生はそこでロボットのほうへ向かわれた?

岡田 はい。僕らはコミュニケーションの中で、身体をベースとしたコミュニケーションの研究をしたいということを考えはじめたんですね。「伝え合う」っていうことには、「相手と自分とが同じような身体を持っている」っていう前提がとても大きいんですね。「相手が何を考えているのか?」と考えるときに、自分の身体が感じ取っていることを手がかりにして、相手が感じ取っていることを探ろうとする……そんな、身体を媒介にしたコミュニケーションを研究しようと。それで、それをやるためにロボットを作り始めたんです。要は、相手も同じような身体を持つという意味で、ロボットという身体を作りながら、そういう身体を備えたシステムと人とのコミュニケーションを生み出そうということです。

丸山 なるほど。最初からロボット屋さんだったわけではなくて、コミュニケーションの研究の延長としてロボットを作り始めたんですね。

岡田 そう。で、僕らは最初からロボット屋さんじゃないから、いろいろな技術が何もないんですよね。どうしてもローテクなロボットしか作れなくて。

 そういう中でなんとなく弱々しいロボットとか、要は、高機能なロボットを作るのがなんとなく、しんどくなってきて……(笑)。

丸山 「なんとなく、しんどくなって」って正直ですね、いいですね(笑)。

岡田 それで、たとえば「ロボットがゴミを拾う」というようなことを考えた場合、普通は、自分で手を伸ばしてゴミを見つけて拾ってくれば、「ゴミを拾うロボット」になるのですが、そういう高機能なロボットを作るよりは、ゴミを拾う機能を実現するのが難しいんだったら、周りにいる子どもたちに拾ってもらえばいいんじゃないかなと。

丸山 それは、大きな発想の転換ですね。

岡田 それで、じゃあ、ゴミの分別というのも、きちんとした画像処理とか、センサー技術を使えばゴミを分別することはできるのですが、それが技術的に難しいのであれば、周りにいる子どもたちにゴミを分別してもらえばいいんじゃないの?という発想ですね。

 普通はロボットの機能を、どんどん足し算していって高めるという方向でものづくりがされるのですが、こういう発想をしてくると、不要なものをどんどんそぎ落としてだんだんシンプルなロボットになるんです。技術的にもとてもチープなロボットになるのですが、周りとの関係性がリッチになるので、結果として目的、この場合は「ゴミを拾い集めること」を達成してしまう。だから、ロボットとしては何もできないんだけども、周りのアシストを上手に引き出して、結果としてゴミを拾い集めてしまう、そういうタイプのロボットをいろいろと作ることになったんです。

丸山 ロボット単体の機能ではなくて、周りの関係性がリッチになることで完成するわけですね。周りとコミュニケーションをとって、周りの人のサポートを得ながら目的を達成する。

岡田 そうですね。本来は自分ひとりで勝手に動くということが自律的なロボットの使命なんだけど、人の助けをうまく引き出しながら結果として目的を達成できればいいんじゃないかな?ということですね。

丸山 たしかに人間の場合も、みんな得手不得手があって、不得手を助け合いながら、補いながら社会が成り立っていますよね。ロボットが「何でもできます」じゃなくて、「俺、これはできるけど、これはできないから誰か手伝って」とコミュニケーションすることによって、目的を達成できると。

岡田 僕らは、生まれてずっと、ひとりでできることをよしとする文化の中で育っている感じがするんですよね。子どものときは、「はやくひとりでできるようになるんだよ」とか言われながら、お母さんが一生懸命世話をして、だんだん大きくなると「あぁ、もうひとりで靴下履けるね」なんて言われるようになって、少し得意がって靴下を履いていたりする。そういう価値観の下で育ってきたわけですね。学校教育なんかでも、テストはひとりで受けるものであって、誰の力も借りてはいけないことになっている。僕は最近、「なんでひとりで定期テストを受けるの?」って言っているんですが。

丸山 ああ、それはわかります。僕も、受験勉強をしているときにすごく思ったことがあって。僕は周りの受験校の中では優秀な人が集まっていた塾に通っていたんです。20人ぐらいのクラスで、灘高のトップとかも来てました。勉強していて、ちょっとわからないことを「わからない」と言うと、「それ、こうしたらええで」とお互いに「わからんけど」「わからんけど」と聞いたらすぐ答えが出てくるから、あっという間にみんなできるようになるんです。本当に。でもそれが、試験の時はひとりじゃないですか。でも試験だって頭がいい人が集まっているんだから、協力してやればあっという間にできるやん、というのがあってなんで試験ってひとりで受けるんだろうって思いましたよ。

岡田 ロボットも同じなんです。自律的なロボットの研究というのは、ひとりで勝手にできることを前提に設計されているところがある。なかなか周りの助けを借りるという発想がなかった。そういうスキルを考える研究があまりなかったんですね。結局人間も、さきほどの「みんな助けてもらっていますよ」という話なんですけど、我々の身体というのも、外から人の身体を見るとそれが自己完結している。人として。そのように見えてしまうのですが、自分の内側から自分の身体を見てみると、意外と自分の顔でさえ見えないとか、自分の背中でさえ見えない。だから、外から人の身体を見ると自己完結しているように見えるんだけど、自分の内側から見ると自分の身体って意外と完結していない。不完結であることが特徴なんですね。不完結だからこそこうやってしゃべりながら、相手の表情を見て、今自分がどんな表情で話しているか? ということを類推しながら、そのイメージをここにくっつけて、相手と話していたりする。

丸山 なるほど。

岡田 そうして考えてみると、人の身体の不完結さというのが、コミュニケーションのひとつの原動力になっていたり、人と関わる原動力になっていたりということなんです。だから、コミュニケーションを考える上で、「我々の身体が自己不完結である」ということがけっこう重要なんです。要は、完結したものと完結したものが並んでいると、そこではコミュニケーションがいらないんですよね。自己不完結で相手から支えてもらって、自己完結させるということをお互いやっている。それで社会が作られているというか。

丸山 これは面白いですね。面白いですよ。もし人間が本当に強い動物であったら、ひとりとしてね、人間の社会ってできていなかったかもしれない。

岡田 そうですよね。

丸山 身体が自己完結していたら、ひとりでライオンに勝てて、ひとりでマンモスでも何でも捕れていたら、別に助けはいらないから、そういう社会が必要ない。ひとりではマンモスは倒せない。けど、お腹空いているからなんとかしたい。「あいつとあいつとあいつと組んだらどうにかできるんじゃないか?」というところでコミュニケーションが生まれて、言葉はなかったけれども、何かボディーランゲージみたいなもので、マンモスを倒してみんなで分配するみたいなこととか。最初はどうだったか知らないけど、きっと、そんなことがないとできなかったでしょうね。

岡田 で、ロボットを使ってコミュニケーションを研究しましょうということで、こういうロボットをふたつ並べて、ここでコミュニケーションさせようとすると、何のためにやるかが全然わからないんですね(笑)。完結したロボットをふたつ並べても。

丸山 あー、言われてみれば確かにそうです。

岡田 いろんなことを考える中で、「あ、我々の身体というのは不完結だから、他者との関係を作り上げる、多少支えてもらうような関係を作るんだな」とだんだんわかってきたということですね。ゴミを拾うロボットなんかも、ひとりでは何もできないような、本当に弱いロボットなのですが、子どもたちのアシストを上手に引き出してそこで結果としてゴミを拾い集めるわけですよ。それと同時に周りの手伝ってくれた人もそんな悪い気がしない。やってあげたことで「なんかいいことしたな」という気になる。

丸山 ゴミ箱ロボットというのは、本当に何もしないんですか?

岡田 要は、ただのゴミ箱なんですよね。それがヨタヨタヨタヨタしながら。

丸山 かわいい(笑)。

岡田 子どもたちが集まるような施設の広場で、ただこうやってヨタヨタして、自分でゴミを拾えないんです。周りの子どもたちも何だかわからない。

丸山 ゴミ箱だとわかったらみんなで捨て始めるわけですね。

岡田 ええ。ゴミを集めてきてくれるんですね。

丸山 勝手に。

岡田 ええ。それで、ゴミを入れてくれると少しお辞儀をしたりする。

丸山 お辞儀はするんですね(笑)。お辞儀もコミュニケーションですね。

岡田 こういう、少しヨタヨタ系のひとりでは何もできないロボットをあえて作ってみて、人とどういうインタラクションがあるのかということを探っている。先ほど言っていたのは、単に人からのアシストを引き受けるだけでなく、人の方、手伝っている方も何か悪い気がしない。ロボットを助けてあげているという意味で、ロボットの存在によって自分が価値付けられているような、お互いに支えつつ、支えているような関係が生まれてくるのではないかということなんですね。

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 『約10年ぶりの改正:新しい個人情報保護法とその影響 前編』など、デロイトトーマツ サイバーセキュリティ先端研究所ではサイバー、情報セキュリティに関するさまざまなコンテンツを公開しています。→→ デロイトトーマツ サイバーセキュリティ先端研究所


著者プロフィール

  • Security Online編集部(セキュリティ オンライン ヘンシュウブ)

    Security Online編集部 翔泳社 EnterpriseZine(EZ)が提供する企業セキュリティ専門メディア「Security Online」編集部です。ビッグデータ時代を支える企業セキュリティとプライバシー分野の最新動向を取材しています。皆様からのセキュリティ情報をお待ちしております...

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