プロジェクトマネジメント、標準の現状
日本国内で実施されているプロジェクトマネジメントの認定資格には次のようなものがある。このうち、IPAの「プロジェクトマネージャ試験」は情報処理技術者試験の一環として情報システムプロジェクトに限られたものであり、また、P2Mを基準とするPMAJの資格制度は日本独自のものである。国際的な展開をもっている資格制度はPMP(プロジェクトマネジメントプロフェッショナル)のみだ。
PMP:米国PMIが主催するPMBOKを基準とした認定試験
プロジェクトマネージャ試験:IPAが主催する情報システム開発プロジェクト責任者のための国家試験
P2M(プロジェクト & プログラムマネジメント標準ガイドブック)による資格制度:日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)が主催
プロジェクトマネジメントコーディネーター(PMC):基礎
プロジェクトマネジメントスペシャリスト(PMS):中級
プログラムマネジメントレジスタード(PMR):応用
プログラムマネジメント・アーキテクト(PMA):高度
日本ではPMI(プロジェクトマネジメント協会)の実施しているPMPとその基準であるPMBOKが広く認知されているが、ヨーロッパを中心にした地域では、スイスに本部を置くIPMA(国際プロジェクトマネジメント協会)が活動しており、ICB(IPMAコンピタンスベースライン)という基準を持って資格制度を実施している。さらに、2つの基準に影響を受けながらも国内組織と基準が存在する国もあるというのが現状だ。
ヨーロッパにおいてはPMBOKも影響力を持っているが、全体的にはICB資格が優勢であり、北米とアジア太平洋地域においてはPMBOKが大きな勢力となっている。
なぜ、国際標準化がすすめられているか
プロジェクトマネジメントの国際標準化に関する経緯を追ってみよう。2006年8月、国際標準化機構(ISO)においてプロジェクトマネジメントの標準化が提案され、2007年2月に「プロジェクトマネジメントに関わる国際標準作成」が可決された(ちなみに、採択の時点で日本は現行基準との混乱を心配して反対票を投じている)。それにより、ISOはPC(プロジェクトコミッティ)236という標準化作業を行う組織を発足させて、標準化の活動が開始された。日本国内においては、2007年6月にPC236国内委員会が発足し、独立行政法人情報処理推進機構が事務局として活動している。2010年1月にコミッティードラフトが提示されており、その後の調整を経て2012年にISO21500として発行されることがゴールとなる。
このような動きが提起されたのは、プロジェクトが国際化し、各基準の微妙な差異が国際プロジェクトの実施に障害となる場合があるからだ。さまざまなNPO活動がそうであり、NATO(北大西洋条約機構)における安全保障に関したプロジェクトにおいてもそうした事態が指摘されているという。現行の各基準において用語の違い、標準プロセスの定義の違いなどは国際共同プロジェクトにおける齟齬を生み出している。そこでISOの場で標準化を発行することにより、それがやがて各基準に浸透し世界的な標準化が行われることが期待されているといえる。
標準化の認定資格への影響
では、現行のPM基準との関係はどうなるのであろうか。各基準の相違を均し、実務の円滑化をめざすものであるため、当然ながら現行基準より上のレベルにおける標準化をめざしたメタ基準的なものになるといわれている。
標準化の内容は、用語、簡潔なコンセプト(ポートフォリオ、プログラム、ガバナンスなど)、標準プロセス(入力、出力)、プロセスグループ間の関係図といった要素で構成されており、標準プロセスに関しては、PMBOKと比べてステークフォルダーマネジメントが追加され、リスクマネジメントが簡素化されているという。
国際プロジェクトの円滑な実行をめざして進められているISO化の作業であるが、いずれは国際的に影響力を持つPMAやIPMAのPM基準、さらにそれらを参照している各国のPM基準に影響を与えるとみられている。それというのも、ISO PC236の委員長であるシェパード氏はIPMA出身であるし、幹事といえる位置にいるANSI代表のズロッキー氏はPMI出身である。各ワークグループでもPMIやIPMA出身者が配されており、理念的な面だけでなく、人の関係としても各PM基準に影響があることは必至であるといえる。4年ごとのPMBOKの改訂時期と2012年のISO21500の発行を考えると、2012年以前から動向に注目すべきだろう。