2026年10月7日に都内で開催された「HP Future of Work AI Conference 2026」。主催であるHPのシニアバイスプレジデント ギャガン・シン(Gagan Singh)氏が登壇した。同社で法人向けデバイス戦略やセキュリティ・ディスプレイ製品の展開を統括するシン氏だが、かつては日本のソニーで働いた経歴も持つ。同氏はまず、企業がAIを導入する際に直面する課題に言及した。
エッジ上でのハイブリッドAIが、トークノミクス問題の解決策になる
現在、市場は生成AIからエージェンティックAIへの進化を迎えている最中だが、新たにトークノミクスの課題があらゆる組織で顕在化してきた。これが1つ目の課題だ。業務にAIを本格適用し始めると、無尽蔵にトークンが消費されていく。なかには、AIによる競争優位性を守るべく膨大なトークンを予算の一環として確保する企業も出てきているが、果たしてこれは持続可能性の観点で健全なのだろうか……。
これに対し、HPは「エッジにおけるハイブリッドAI」という解決策を提示している。同社を筆頭に、「世界中のAIで行われる推論の多くが、数年のうちにエッジ上で行われるようになる」という予測を各社が出しているが、キャパシティやスピードなどの面から現実的に考えて、この予測はその通りになるだろう。
エッジにおけるハイブリッドAIへとシフトすることで、AIのスピードや精度を損なうことなくトークンコストを大幅に削減できるとシン氏。特にエージェンティックAIは、人間のナレッジワーカーが同じタスクを実行する場合と比較して、20~50倍のトークン数を消費する。すでに高価で財務的な問題となっているトークンが、AIエージェントの普及とともに、今後さらに跳ね上がっていくことは必然だ。今のうちから環境・仕組みの構築で備えなければならない。
あらゆるデバイスとエージェントの制御も喫緊の課題
2つ目の課題は、セキュリティとガバナンスだ。まずは、AIの稼働に必要となるデータの保護。すでに、機密データや顧客データがパブリッククラウド上に流出してしまったという事例はいくつも出てきている。法律事務所のような顧客の守秘義務第一の業種では、このリスクを恐れてなかなか思い切ったAI活用に踏み出せていない組織が多いという。シン氏は、「AI導入の道のりは組織ごとに様々だが、共通して明確に言えるのは『IT部門にとってはデータ保護が最優先の要求である』ということだ」と語った。
AIエージェントの統制も必須だ。これは、マシン/デバイスの統制とセットで考えなければならない。国内外すべての拠点のどこにいくつのデバイスが存在し、それらのデバイスやネットワーク上でどのようなAIエージェントがどれほど稼働しているのか。また、各エージェント同士や、エージェントとデバイス間の関係性、相互作用、権限なども把握する必要がある。さらには、それらに不審や異常が見られた際、出来る限りリアルタイムで遮断・停止できる環境も欠かせない。
ここまでを踏まえて、シン氏は日本の「信頼性(Trust)」をいかに確保できるかが、AI活用加速のキーであり、HPにとっての商機でもあると述べる。

場所・時間を問わず人とエージェントが協働する、となればPCの在り方も再定義が必要
HPが長年提供してきたパーソナルコンピューターの在り方も変わりつつある。生成AIの実装で、ともに働くコンパニオンへ、さらにはAIエージェントの実装で、さら頼もしいパートナーへ。PCそのものがよりインテリジェントになり、クリックやタッチ、タイピングだけでなく、会話や書き込みによるマシンとの対話も広がりつつある。PCが利用できるコンテキストが格段に増え、ユーザーを理解し、ユーザーのニーズや悩みを予測し、ユーザーとともに問題を解決するシステムになっていく。
HPのAI戦略は、3つの柱で構築されている。
- 信頼できるエッジAIの構築:エッジAIは、AIを使役する人物のもっとも近くにあるAIである。その人が求める成果を最速で提供できるよう、AIは手元にあるべきだ。またHPは、データ保護とエージェント保護の両面を確保すべく、エコシステム内でAIの信頼性とセキュリティを同時に提供する。
- アンビエントなパーソナルAIの提供:ユーザー専用のAIとして個別に最適化されたAIを提供する。PCがユーザーに起こっているすべての事象を情報として収集し、ユーザーのパーソナライズ体験を動的に最適化する。その瞬間にもっとも適切なコンテキストを提供できるようになる
- 垂直市場へのAI展開:一般的なオフィスだけでなく、製造現場、防衛、医療など様々な垂直市場にAIをもたらし、あらゆる仕事に寄り添ったAIを提供する
これら3つの柱を、さらに以下3つのレイヤーで実現するとのことだ。
- ハードウェア・プラットフォームの再構築:人間とエージェントがともに働く世界に備え、PCを完全にゼロから再構築(リアーキテクト)する
- IQエクスペリエンス:エージェンティック体験のコアとなるインテリジェンスのレイヤー
- Workforce Experience Platform:すべてのデバイスやAIエージェントを大規模に制御・管理するレイヤー
なかでも、インテリジェンス層を担う「HP IQ」がピックアップで紹介された。2026年3月に発表された同ソリューションは、エッジにおけるローカルインテリジェンスとして機能し、ネットワーク接続がない環境でもドキュメント要約やメール作成、質疑応答などといった日常タスクを高速処理できる。また、デバイスや物理的な場所をまたいだコンテキストの保持が可能で、会議室システムや他のHP PCとファイルをドラッグ&ドロップで即座に共有できるという。クエリ内容に応じてローカルモデルで処理するか、クラウドへ送信して処理するかを自動判断し、組織のトークン効率を自動で最適化できるとのことだ。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティとAI(人工知能)の分野を中心に、ソフトウェア/ハードウェアを問わず国内外の最新技術やルールメイキング動向を取材。そのほか、DX推進、IRなどのコーポレート領域でも情報を発信。※取材のご案内等は個人のメールアドレスか、EnterpriseZine編集部の問い合わせ窓口にお願いいた...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア

