オープンハウスの「事業のブレーキにならない」セキュリティ運用──現場伴走で急成長を支える仕組みと文化
相談窓口の一本化から「報告を責めない」文化まで、セキュリティチームの工夫
事業拡大を続け、連結従業員数6,000名を超えたオープンハウスグループ。その強みの一つは、情報と現場の意思決定のスピードにある。もし、サイバーセキュリティがそれを止めてしまうようなことがあれば、成長鈍化につながりかねない。では、事業を止めずにどのようにして守るべきか。本稿では、2026年9月17日に開催したセキュリティカンファレンス「Security Online Day 2026 Autumn」より、同社 セキュリティ課の升澤隼澄氏の講演から、現場伴走型の運用設計と組織文化の醸成方法をレポートする。
成長企業でセキュリティが阻害要因とならないために
オープンハウスグループは1997年創業、東京・丸の内に本社を置き、連結従業員数は6000名を超える。戸建てを中核に、マンション、アメリカ不動産、投資用マンション、収益不動産などを手がけるほか、プロバスケットボールチーム「群馬クレインサンダーズ」やスキー場の運営まで事業は多角的だ。積極的なM&Aで関連会社も増えつづけている。
同社は製造から販売管理までをグループ内で完結させる「製販一体型」のビジネスモデルを採り、現場で吸い上げた顧客ニーズを仕入れや設計へ、素早くフィードバックする体制を整えている点が強みの一つだ。オープンハウスグループ セキュリティ課の升澤隼澄氏は、「われわれの強みは、情報と現場の意思決定のスピードです。ここをセキュリティで止めてしまうと、会社の強みが失われることになると考えています」と述べる。

株式会社オープンハウスグループ 情報システム本部 ITインフラ部 セキュリティG セキュリティ課 副主任
升澤 隼澄氏
2023年にオープンハウスグループに入社し、クラウドエンジニアとしてクラウド基盤の構築・保守を担当。インフラエンジニアとして各拠点やデータセンターのネットワーク、重要サーバーの運用も担当。現在はセキュリティチームも兼任し、グループ全体のサイバーセキュリティ強化に従事。セキュリティ領域において組織的対策と技術的対策の両面から、様々なセキュリティ施策を推進している。
サイバーセキュリティは、一般に「守りのコスト」として語られがちだが、スピードが競争力の源泉である企業においては、承認待ちの1日すら事業損失になる。一方、企業が成長期にあってグループ会社が増えるほど、守るべきIT資産もガバナンスの対象も広がっていく。守る範囲は広がりつづける中、事業の減速は許されない。同社のセキュリティチームに課された命題も同様だ。
升澤氏は、セキュリティ施策の社内展開にあたり、押さえるべき同社の事業特性として4つを挙げる。
- 土地の買い取りのように即時判断が求められる領域があること
- 支店やモデルルーム、工事現場など、現場が分散していること
- 契約書類や個人情報などが日々行き交っていること
- 期末や繁忙期など、現場負担の大きな施策を打てない時期があること
たとえば、拠点が分散していて社外での業務が多ければ、境界型防御だけでは守りきれない。また、特性が異なる環境下に一律の厳格なルールを持ち込めば、事業部門との摩擦は避けられないだろう。
その上で升澤氏は、セキュリティがブレーキになる典型的な構造についても、4つに整理した。
- (相談先があいまいで)「誰が決めるのかわからない」
- (規定で禁止されているだけで)「NGの理由が伝わらない」
- (禁止です、と回答するだけで)「代替案を出していない」
- (繁忙期に負荷の高い施策を打つような)「事業の事情を知らない」
ここで注目したいのは、4つとも技術ではなくコミュニケーションと運用設計の問題だという点だ。こうした構造的な課題を放置すれば、相談できなくなった現場担当者がセキュリティチームの知らないところで新しいサービスを使いはじめ、シャドーITが広がるかもしれない。つまり、セキュリティチームの姿勢一つで、リスクそのものが見えなくなってしまう危険性を生みかねないのだ。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア

