MUFGのAI PoCを再建したオントロジー×ナレッジグラフ活用 非IT部門が2万件の知見をデータ化
マニュアルの言葉を“AI-Readyなデータ”に。あいまいさを排除した次世代コンテキスト構築
生成AI活用に向けてPoCに取り組んだものの、出力結果の品質に満足できず、本格的な導入に踏み切れないケースは少なくない。多くの企業がこの本格導入の壁を越えられずにいる中、三菱UFJ銀行は最新のテクノロジーを取り入れた設計の見直しで、再びプロジェクトを前進させることに成功する。しかもユーザー部門の主導によるものという点が興味深い。このプロジェクトのリーダーを務めた同行の執行役員 国際事務企画部長 溝口直樹氏に、紆余曲折の歩みを振り返ってもらった。
事務の標準化と「AIフローチャート」
リーマンショック後の投資銀行ビジネスへの進出、2010年代に入ってからの東南アジアビジネスの強化を経て、三菱UFJ銀行の2025年度における海外収益比率は50%を超える。現在は世界50ヵ国で事業を展開しており、このうち現地法人を置く30ヵ国で働く社員は3,000人超。取引数は1日20万件、年間4000万件の規模になる。海外ビジネスが急拡大する中、溝口氏の所属する国際事務企画部では「QCDの三方よし」を掲げ、Q(品質)、C(コスト)、D(デリバリー)のバランスを整えようと、各拠点の事務手続きの標準化に取り組んできた。
背景にあるのは経営環境の変化である。金融規制の強化や顧客ニーズの高度化で、金融機関のビジネスの舵取りは難しくなるばかりだ。同行はこれまで、日本の銀行らしく「品質ファースト」でビジネスを展開してきた。しかし、品質ばかりを気にしすぎてはスピードが犠牲になる懸念もある。コスト増にもつながるだろう。取引の中でも特に頻度の多い送金では、インシデントを起こさない品質の担保は当然として、スピードが重要とされる。国際事務企画部では、以前からダッシュボードで「事務事故発生件数」「事務事故発生率」「事務経費」「取引1件あたりの事務経費」「事務取引件数」「従業員1人あたり取引件数」の6つの指標をモニタリングしてきた。
これらの指標からわかる問題が、各拠点における事務のばらつきが大きいことだ。インドにある事務センターへの集約度が約1割であることからわかるように、ビジネス成長のスピードを優先し、多くを各国の裁量に任せる分散型ガバナンスの弊害が問題になってきた。そこで足並みを揃えようと取り組んだのが“標準化”である。
「QCDの三方よしを極める取り組みの一環で、マニュアル作業に依存している事務の標準化に取り組もうと考えた」と溝口氏は説明する。標準化への取り組みは最近始めたわけではない。後述のAIを利用した取り組み以前にも、システムへの投資を含めて試行錯誤を繰り返してきた。
事務マニュアルを見ると、東京本部のものは原則を中心とした内容で600ページ程度にわたり、海外拠点のものは具体的なルールを中心に1拠点あたり数百ページ、多いところは数千ページにもなる。粒度が異なる本部と拠点の比較もさることながら、どの拠点のどの手続きを標準として採用するかも難点であった。
そこに生成AIが登場。AIがフローチャートを自動生成してくれる「AIフローチャート」を使うことで、標準化に向けて前進の糸口が見えてきた。三菱UFJ銀行が考えたAIフローチャートを利用した標準化は、「1. フローチャート作成」「2. フローチャート比較」「3. 関係者協議」「4. フローチャート修正」の3番以外をAIに支援させるものになる。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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