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ITRに聞く、生成AIの実態動向と導入のポイント──期待値との調整、RAGの落とし穴、ガイドライン策定のチェックリスト

ITR 舘野真人氏インタビュー

企業が生成AIを導入する際の競争優位性はどこにあるのか。ITRのアナリスト舘野氏は、同社の生成AIの動向に関する調査結果を踏まえながらRAG導入の落とし穴、生成AIガイドライン導入のチェックポイントなどを解説した。

各社の生成AI調査から見えてくるもの

ITR (アイ・ティー・アール)プリンシパル・アナリスト 舘野真人氏
ITR (アイ・ティー・アール)プリンシパル・アナリスト 舘野真人氏

 生成AIの企業導入状況について、様々な調査結果が発表されている。その多くはグローバルの調査会社、コンサルティングファーム、AI関連ベンダーによるものであるが、日本企業の動向に焦点を当てた分析も散見される。これらの調査から、生成AIの導入や活用に関する動向や課題が徐々に明らかになりつつある。

 日本企業の生成AIに対する姿勢には大きな変化が見られず、多くは既存ビジネスにおける競争優位性の確保を主な目的としている。しかし、その成果には二極化の兆しが見られる。期待を大きく上回る成果を上げた企業群と、やや期待を下回る結果に留まった企業群が存在しているのである。各社の調査から共通して見えてくるのは、以下のような課題だ。

  1. 導入後の効果が当初の期待値に届いていない
  2. 人材・スキル面での不足
  3. 社内ルールの未整備
  4. 経営層と従業員間の活用認識のギャップ

 2024年前半の段階では、多くの企業にとって生成AIの「本格活用はまだこれから」という状況だった。こうした傾向は、過去のデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する調査結果とほぼ同じ傾向を示しているといえる。

 筆者としては、こうした調査結果を通じて生成AIの導入に関する実践の指針がなかなか見えてこないという印象を持っている。その理由は、現状の多くの調査において「生成AI導入・活用」の定義が曖昧でその範囲が多岐にわたるだ。生成AI活用といっても、そのレベルはさまざまだ。たとえば、ChatGPTなどのチャット利用、Microsoft Copilotなどの生産性向上ツールの活用、RAG (Retrieval Augmented Generation)による自社独自のデータ活用、さらには独自のLLMの開発まで、導入レベルの違いが明確に区別されていない。また、日本企業と欧米企業の比較においても、「日本は導入に前向き」というものから、「日本企業は欧米に比べて慎重」というものまで調査によって結果にばらつきがあり、一貫した傾向を見出しづらい。

 このような中で、国内IT市場に特化した調査を行うITR(アイ・ティ・アール)の生成AIに関するレポート『ITR White Paper:生成AIの真価を引き出すアプリケーション戦略』は、国内企業の導入活用状況や課題により深く踏み込んだ内容となっている点で注目に値する。同社のアナリストである舘野真人氏は、調査の背景を以下のように語っている。

 「生成AIは予想以上にユーザー企業に大きなインパクトを与えており、ITRの30年の調査経験の中で、これほど短期間で投資意欲が高まったテクノロジーは初めて。1000社規模の企業IT担当者へのアンケートでは、多くの企業が活用に前向きな姿勢を示していることが判明しました」

 昨年以降、ITRには多くの企業からLLM(大規模言語モデル)の選択に関する質問が寄せられたものの、業務プロセスへの具体的な適用アプローチに対する関心が薄かったこともこの調査の理由だという。

 「重要なのは、生成AIを業務にどのように組み込むかを検討することです。本レポートでは、実際の業務プロセスへの生成AIの統合方法を体系的に整理し、提示することにより、単にLLMの選択にとどまらず、より包括的な視点で生成AI活用に役立てたいと考えました」と舘野氏は説明している。

生成AI導入の期待と現実のギャップ、その理由は?

 ITRが2024年1月に実施した調査によると、生成AIに対する企業の期待は非常に高く、回答企業の約3分の2が「有望である」と回答している。特に役員・事業部長クラスでは、33%が「極めて有望であり、すぐにでも全社的な活用を始めるべき」と回答しており、経営層の高い関心が伺える。

図1 出典:ITR 「ITR White Paper:生成AIの真価を引き出すアプリケーション戦略」 [画像クリックで拡大]

 しかし、その効果の実感については、「期待どおり(あるいはそれ以上)の効果があがっている」と回答した企業は30%前後にとどまっている。舘野氏は、この結果について次のように分析している。

 「期待が高い一方で、その効果を十分に引き出せていない企業が多い。これは、生成AIの特性を十分に理解せずに導入を進めてしまったり、既存の業務プロセスとの連携が不十分であったりするケースが多いためだと考えられます。また、AIリスクへの懸念から活用範囲を過度に制限してしまい、本来の効果を得られていないケースもあるでしょう」

図2 出典:ITR 「ITR White Paper:生成AIの真価を引き出すアプリケーション戦略」 [画像クリックで拡大]

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生成AIの活用の4つのレベルと目的

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この記事の著者

京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在は、EnterpriseZineをメインにした取材編集活動、フリーランスとして企業のWeb記事作成、企業出版の支援などもおこなっている。 ...

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