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迫る「サステナビリティ情報開示の義務化」にIT部門が果たすべき役割

3月にSSBJが発表した「サステナビリティ開示基準」で何が変わる?──ポイントは早さ・広さ・正確さ

第3回:日本版サステナビリティ開示基準が正式決定、IT部門が今押さえるべき「5つのアクション」

 2025年3月5日、サステナビリティ基準委員会(以下、SSBJ)が日本におけるサステナビリティ開示基準を公表しました。これまでは、国際的な基準に準拠する必要のあるグローバル企業や海外展開企業が中心となって対応してきましたが、国内で公式に基準が示されたことで、「日本企業として何を準備すべきか」がより明確になりました。本連載では、これまで2回にわたり、サステナビリティ情報開示の義務化におけるIT部門の役割について取り上げてきました。最終回となる今回は、公開された開示基準を踏まえながら、IT部門が今後押さえておくべきアクションを5つに整理してお伝えします。

知らないとまずい! 開示準備期間の半減/対象範囲の拡大……

 公表されたSSBJ基準が従来の任意開示と大きく異なる点は、「早さ」「広さ」「正確さ」の3つです。

 まず「早さ」についてです。従来、非財務情報の開示は、3月決算の企業であれば9月ごろに実施されるのが一般的でした。しかしSSBJ基準では、財務諸表と同時、つまり事業年度終了後3ヵ月以内である6月末までの開示が義務付けられています。これは、企業にとって情報収集および開示準備にかけられる期間が、これまでの約半分に短縮されることを意味します。そのため、限られた時間内で正確な情報を取りまとめるには、社内外の連携体制を早急に整えるとともに、システムを活用した効率的な情報収集・管理の仕組みが不可欠です。

 次に「広さ」について見ていきましょう。これまでは、開示対象を本社に限定するケースも多く見られましたが、SSBJ基準では、開示の範囲を「関連する財務諸表と同一の報告企業」、すなわち財務連結と同じ連結範囲にまで拡大することが求められています。特に大企業においては、海外子会社を含むグループ全体での開示が前提となります。

 さらに、対象は自社グループ内にとどまりません。原材料の調達や加工、物流といった上流工程から、製品の使用や消費、廃棄といった下流工程まで、いわゆるバリューチェーン全体に関わる活動についても情報開示が求められます。このように、SSBJ基準のもとでは、国内外の子会社や取引先も含めた、膨大かつ多様な非財務データの収集・管理体制を整備する必要があるのです。

 最後に「正確さ」についてですが、SSBJ基準では、開示情報に対する第三者保証が義務付けられます。監査対応のための業務プロセスやシステム整備はもちろん、エラー発生のリスクを最小限に抑えることが重要です。初期段階から「監査されること」を前提とした体制と仕組みづくりが欠かせません。

これからIT部門が取り組む、5つのアクションを解説

 これらのポイントを踏まえたうえで、IT部門が今取り組むべきアクションを5つの視点から整理して紹介します。なお、足元のSSBJ開示対応に万全を期すことは当然ながら、さらに重要なのは、その先を見据えた取り組みです。サステナビリティデータを経営に活かし、企業価値の向上へとつなげていくプロジェクト推進こそが、これからの企業成長を左右する鍵となるでしょう。

1. 最低でも2年、理想は2年半の準備期間を確保する

 SSBJ基準に基づく開示体制の構築には、相応の時間と労力を要します。先に述べた「早さ」「広さ」「正確さ」を実現するためには、グループ全体を巻き込んだ体制づくりが不可欠です。現状把握から始まり、収集対象となるデータの定義、関係部門との連携による情報収集、そしてガバナンス体制の整備など、多段階にわたるプロセスを着実に進めていく必要があります。

 特に重要なのが、本番稼働に先立つ「試運転(ドライラン)」期間を約1年間確保すること。たとえば、2027年3月期から新システムでの本格運用を予定している場合、2026年3月期中には、運用環境および社内体制を概ね整備し、実証フェーズに移行できる状態を目指すのが理想的です。

 このように、SSBJ基準に準拠した体制構築は、技術的・運用的にも高度な対応が求められます。実際の運用を開始すると、データの入力ミスや不整合、想定とは異なる粒度・形式のデータ、さらには子会社間での精度のバラつき、実測値ではなく推定値での報告など、様々な課題が顕在化することも少なくありません。

 こうした事態に柔軟かつ的確に対応するためにも、試運転期間中に監査法人やシステムベンダーと連携しながら問題を洗い出し、必要に応じてシステム設定やワークフローの見直しを重ねるプロセスが重要です。

2. グローバルでの情報収集体制を整える

 前述の通り、SSBJ基準への対応には、本社だけでなく、海外拠点やサプライヤーを含めたグローバル全体からのデータ収集が欠かせません。これに対応するため、IT部門には、標準化されたデータモデルの設計や、地域を問わず一貫性を保てるインフラ環境の整備が求められます。また、各国・地域の法規制や言語に対応した業務プロセスの設計も必要であり、IT部門内にグローバル対応を担う専任チームを設置することも重要な検討事項となります。

 さらに、プロジェクトを円滑に進めるうえで欠かせないのが、各拠点・取引先とのきめ細やかなコミュニケーションです。たとえデータ収集フェーズに入っても、現場の関係者が取り組みの意義や背景を理解していなければ、協力が得られず、プロジェクトが停滞する恐れがあります。プロジェクトメンバーは、「誰に」「何を」「どのように依頼するか」といった具体的な指示までを明確にし、継続的かつ丁寧な情報共有を行うことが求められます。各拠点の理解度と対応力、すなわちケイパビリティを高めていくことが、SSBJ基準対応を成功に導くための重要な要素となります。

次のページ
制度や要件変更にも柔軟に対応できる体制づくりを

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この記事の著者

大我 猛(オオガ タケシ)

Booost株式会社 取締役 COO元SAPジャパン 常務執行役員 チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー。1997年、日本オラクルに入社。その後、コンサルティングファームに参画し、M&Aによる企業統合コンサルティングに従事。2008年に世界最大級のB2Bソフトウェア企業であるSAPに...

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