AIエージェントが「答えるアシスタント」から「動く実行者」へと役割を変えつつある。今年5月19〜21日に米ラスベガスで開かれた「Informatica World 2026」は、この変化に対するInformaticaの答えを示すカンファレンスだった。2025年にSalesforceに買収され、完全子会社「Informatica from Salesforce」として初めて迎えた年次イベントでもある。同社が打ち出した方向は明快で、「コンテキスト」と「ヘッドレス」という2つの言葉に集約される。本稿では個別の製品発表を追うのではなく、同社の戦略がこの2軸へどう舵を切ったのかを解説する。
AIエージェントの失敗はモデルの賢さではなく「コンテキストの質」で決まる
基調講演に登壇したSalesforceのラフル・オーラドカー氏(Rahul Auradkar)は、「AIエージェントが真価を発揮するには、信頼できるデータの土台が不可欠だ」と語った。信頼できるコンテキストが土台となり、エージェントが実行し、ヘッドレスなプラットフォームが能力を届ける——講演は、この3つが連携する構図を前提に進んだ。
エージェントAIの失敗は、多くの場合モデルの性能不足が原因ではない。賢いモデルほど、誤った前提のまま自信を持って実行を続けてしまう——基調講演で繰り返し語られたのは、この厄介さだった。
たとえば「車は右側を走る」というルールは、ラスベガスでは正しくてもロンドンでは危険になる。変わったのは事実ではなく、それを取り巻く文脈(コンテキスト)だ。人間なら状況から相手の意図を汲み取れるが、文脈を与えられないエージェントは誤った前提のまま処理を進める。
やっかいなのは、データが技術的には正しくても、部門や地域によって意味がずれる「意味の歪み」だ。営業が「リード」と呼ぶ相手を経理は「アカウント」と呼び、同じ顧客が別人として扱われる。こうしたずれをエージェントは疑わずに適用し、エラーを見えないまま広げていく。Informaticaの幹部はこれを「garbage in, gospel out(ゴミを入れると、絶対的な真理として出てくる)」と表現した。出力が説得力を持つぶん、人間まで誤りを信じ込まされてしまう。
つまり、エージェントの精度を左右するのはモデルの賢さよりも、入力として渡される「コンテキストの質」である。Gartnerは8割超の組織が2年以内にAIエージェントを導入すると見込む一方、AIプロジェクトの多くが頓挫するとも指摘される。Informaticaの幹部は、このギャップの正体をコンテキストの欠如に求めた。
信頼できるコンテキストはMDMとCDGCの二層で生み出す
では、信頼できるコンテキストはどこから生まれるのか。Informaticaが据えたのは、自社の中核製品である「MDM(マスターデータ管理)」を、コンテキストを生み出す「工場」とみなす考え方だ。
エージェントの推論は本質的に確率的だが、その土台となる顧客や製品のマスターデータは、揺るがない「正解」として固められていなければならない。MDMは複数システムに散らばった同一顧客の情報を突き合わせ、一意で正確な「ゴールデンレコード」を作る。それを取引データや関連情報と結びつけることで、エージェントが頼れるコンテキストに仕立てる。単なるデータベースではなく、レコードを文脈付きで磨き上げる精製所、という位置づけである。
もう一つの柱が、横断的なデータガバナンス製品「CDGC(Cloud Data Governance and Catalog)」だ。鍵になるのは「機械が読めるメタデータ」という発想である。従来のデータカタログは、人間がデータの中身を把握するための道具だった。これをエージェントにも開放し、どのデータがどこにあり、どんな意味を持ち、どう接続すればよいかをエージェントが理解できるようにする。Informaticaの幹部はこれを「企業のコンテキストマップ」と呼んだ。
両者の役割分担はシンプルだ。MDMがレコードそのものの正しさを担保し、CDGCが企業全体のメタデータとポリシーを束ねる。この二層で、エージェントに渡すコンテキストの確からしさを支える構図である。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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