清水建設が「20億円プロジェクトを常駐者2名で」を目指す切実な理由、AIでデジタルゼネコンにも変化
「Autodesk Design & Make Summit Japan 2026」レポート
国・地域や業種を問わず、すべての企業がエージェンティックAI(Agentic AI)の活用に意欲的な状況下、建設業の現状はどうなのか。2026年7月22日に行われた「Autodesk Design & Make Summit Japan 2026」で紹介された、清水建設の取り組み事例から実態を探る。
なぜ「20億円プロジェクトを常駐者2名で」なのか
清水建設は、“デジタルゼネコン”を掲げた2020年の中期デジタル戦略「Shimz デジタルゼネコン」を経て、2024年から2026年にかけて「機能連携を強化するDX」、2030年度に向けて「総合力を活かした価値創出のDX」をDX戦略に掲げ、実現に向けて取り組んでいる。
講演冒頭に登壇した清水建設の原田知明氏によれば、特に注力している領域がDX基盤の整備だ。定型業務を50%以上自動化することを目標に定め、「2030年度までに建築現場の生産性を向上させ、20億円規模のプロジェクトは現場常駐2名で運営できるようにする」と紹介した。
清水建設がこの目標を設定した背景には、建設工事の需要変化がある。2026年度における“工事の消化能力”を基準に2027年度以降の見通しを予測すると、2029年度には工事量が消化能力を上回る見込みだ。これは、従来通りの地道な改善を積み重ねたとしても、消化できないほどの増加であり、抜本的な生産性改革を断行しなくては解決が困難である。
もう一つ、過去5年間における現場工事のプロジェクトを件数別および金額別割合から傾向を評価したところ、請負金額10億〜50億円のプロジェクトが全体の約20%を占めることもわかった。支店の経営や現場責任者の育成を考えると、同規模プロジェクトにおける生産性改革の成功こそが事業運営の肝になる。
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原田氏は、「通常、清水建設では20億円規模のプロジェクトは、常駐者5名で運営する。では、最低限の人数でプロジェクトを運営しようとすると、何名体制が適切なのか。1名だけで運営することは、安全管理の観点から現実的ではない。だからこそ、最低2名は必要だと考えた」と話す。この「20億円プロジェクトを常駐者2名で」というテーマを実現するための手段こそが「生産体制の改革」「人材育成」「デジタルテクノロジーの活用」である。
実現に向けてのアプローチを探るため、建設現場における時間の使い方を年単位で調べ、「完全に支店に移管できる業務」「一部は支店に移管できる業務」「現場でなくてはできない業務」という、3つの観点から整理。その結果、現場業務の半分以上は支店で行える業務だと判明した。
「業務の分散と集中は、物理的に離れた場所にいる関係者が円滑に連携してこそ両立できる。そのためには、最新の情報をリアルタイムに共有するプラットフォームが必要になる」と原田氏。そこで現在、品質プラットフォーム、コストプラットフォーム、工程プラットフォーム、安全プラットフォーム、統合ワークフロープラットフォームという、5つのプラットフォームを整備しているという。
外部の工事会社と連携 手戻りを大幅に削減
続いて登壇したのは、清水建設の三戸景資氏。常駐者2名で20億円プロジェクトを運営するため、2ステップでの実現を目指しているという。第一ステップは、現場業務を本社や支店でも遂行できる環境を作ること。現場での作業を減らすため、前述したプラットフォーム戦略を進めている。そして、第二ステップでは、現場業務をコンピューターが実行できる環境を用意していく。
具体的には、下図にある「デジタイズ」「デジタライズ」「DX」「AX(AIトランスフォーメーション)」の4ステップで推進する。三戸氏は、「DXは、アナログの段階から一足飛びに実現することはできない」と強調。紙などの“アナログのデータ化”、データに基づく業務プロセス実行の基礎ができて初めて、関係者全員がプロジェクト情報を共有し、工事現場の業務を支店に一部移管することも可能になる。
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三戸氏は、「場合によっては、業務フローを変えることも必要と認識している」と話す。その一例として紹介したのは、東芝エレベータとの取り組みである。一般に、ゼネコンと東芝エレベータのような専門工事会社が仕事をする場合、図面のやり取りを繰り返しながら指示を設計に反映・最終化していく。このとき、手書きの図面では手戻りが頻繁に発生していた。しかし、BIM(Building Information Modeling)の普及によって、モデルを介した修正が可能になった現在、クラウド上でデータを共有し、設計、承認、製作と工程を進めることで手戻りを大きく減らせる。
こうした新しい業務フローの確立に向け、清水建設が導入したものが「Autodesk Informed Design(IND)」である。同製品を用いることで、製作ルールと設計を連携。一度構築した仕組みを他社との業務にも展開できれば、さらに大きな効果が期待できる。三戸氏の経験に基づけば、プロジェクトの全工程における95%はオペレーター側で解決でき、ゼネコンが判断するべき場面を5%程度に収めることが可能だという。現在も検証中だが、調整業務を減らすことで時短だけではない、設計品質の向上も期待されている。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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