明治安田 生田目雅史×テックタッチ 井無田仲──「ただAIで効率化だけしても、お客様は喜ばない」
グループAI責任者が語る、顧客本位のAI戦略とAIガバナンス
1881年創業の明治生命を源流とし、日本最古の生命保険会社である明治安田生命保険。2024年10月には、全国の営業職員約3万6000人にAIを搭載したデジタル秘書「MYパレット」を展開し、アクセンチュアとの300億円規模のパートナーシップのもと、AI実装を加速させている。その変革を2026年から率いるのが、金融業界の第一線で多様な要職を歴任し、執行役専務グループデジタル責任者を務める生田目雅史氏だ。「AI活用による時間の節約や効率化は、企業の論理であってお客様の論理ではない」と話す生田目氏に、テックタッチ代表の井無田仲氏がAI戦略とガバナンスの本質について聞いた。
「AIによる効率化」は企業の論理でしかない
井無田仲氏(以下、井無田):生田目さんは、銀行や投資銀行、決済、資産運用、保険と、金融業界の主要な領域で第一線を歩んでこられました。こうしたキャリアの原点には、どのような経験があったのでしょうか。
生田目雅史氏(以下、生田目):社会人になって今年で39年目になりますが、一貫して「金融機関の中で意義ある貢献ができる企業で仕事をしたい」と考えてきました。新卒で入社した日本長期信用銀行は、当時デリバティブやM&Aなど先進的な取り組みにも注力する銀行でした。しかし、社会人10年目にまさかと思われた経営破綻が現実のものとなり、その直前に退職を決意しました。この経験を機に、金融とは何のために存在するのか、金融機関経営とは何か、金融業界はどこへ向かうのかを考えつづけてきました。
その後は、「本物の金融のプロ」になるためには銀行だけでなく、異なる業態を知る必要があると考え、投資銀行、決済、資産運用、保険と経験を重ねてきました。今では、金融とは「社会の発展を加速する存在」だと考えています。
東京大学法学部卒業、ハーバード大学MBA取得。1988年日本長期信用銀行入行。金融監督庁(現・金融庁)、ドイツ証券、モルガン・スタンレー証券で投資銀行業務、Visaワールドワイド・ジャパンで決済事業、ブラックロック・ジャパンで資産運用、東京海上ホールディングスでグループCDO(専務執行役員)を歴任。2026年3月、明治安田生命保険相互会社に参画し、現在は執行役専務グループデジタル責任者・グループAI責任者。一般社団法人AIガバナンス協会の設立に携わり、共同代表理事(大柴行人氏、羽深宏樹氏と共同)を務める。
井無田:「社会の発展を加速する存在」、これはどのような意味なのでしょうか。
生田目:金融というと、安心や安全を提供する仕事だと捉えられがちです。それも重要ですが、私はもう一歩踏み込んだ「未来に向けての役割がある」と考えています。
たとえば、日本に自動車がまだ100台ほどしかなかった時代に損害保険が生まれました。事故という万が一のリスクをカバーする仕組みがあったからこそ、人々は新しい文明の利器を安心して使えるようになったともいえます。生命保険も同じです。万が一の経済的な不安を和らげることで、本人や家族が仕事、人生について選択肢をもてるようになる。金融は単にリスクを抑えるだけでなく、社会や人が前に進むための土台をつくる存在だと考えています。
井無田:そうした“金融観”をもつ生田目さんが、明治安田生命への参画を決めた理由はなんだったのでしょうか。また、どのような貢献をしたいと考えられたのでしょうか。
生田目:金融が社会に貢献する領域でも、生命保険会社が担う役割は非常に深く、大きなものだと考えています。なかでも、日本最古の生命保険会社を源流とする明治安田生命が目指すものには、大きな可能性を感じました。これまで金融業界で培ってきた経験と、自分の専門領域であるデジタルを生かして貢献できることがあるはずだと考え、参画しました。
井無田:その上で、明治安田生命のAI・デジタル変革において、どのような目標を掲げているのでしょうか。
生田目:弊社は私の着任前から、「AI・デジタルの時代だからこそ、人に最もやさしい生命保険会社になる」「AIの活用によって人と人との信頼関係をさらに一段高めていく」という経営としての目標を明確に掲げていました。この考え方に、私は非常に共感しました。
私は、あらゆる企業活動は顧客本位であるべきだと思っています。まず、お客様に価値を提供し、その結果として企業の業績につながる。この前後関係を間違えてはいけません。
この視点でAIを考えると、AI活用による時間の節約や効率性の向上、コストダウンは企業の論理の側面が強く、お客様の論理ではありません。提案の速さや情報量は重要ですが、それだけでお客様の信頼が高まるわけではないのです。AIやデータを駆使しながらも、最終的には信頼や安心を生み出すのは人と人とのコミュニケーションです。AI・デジタルは、その関係をより豊かなものにするためにあるべきだと考えています。
井無田:その考え方を実現するためには、営業職員約3万6000人全員がAIを日常的に活用できることが重要なのでしょうか。
生田目:そうですね。AIは一部の人だけが使うものではなく、営業職員一人ひとりが日常業務の中で自然に活用できて初めて、本来の価値を発揮すると考えています。
そのため、2024年10月にデジタル秘書「MYパレット」を全国の営業職員約3万6000人に展開し、一人ひとりがAIを活用できる基盤を整えました。お客様の生活パターンや趣味嗜好などもふまえつつ、内外のさまざまなデータをAIが分析し、日々の活動を支援する仕組みです。今後は機能を高度化するだけでなく、営業職員が日々の業務の中で自然にAIを活用できるよう、UI・UXの改善にも継続的に取り組み、誰もが当たり前に使いこなせる状態を目指していきます。
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井無田 仲(イムタ ナカ)
テックタッチ株式会社 代表取締役慶應義塾大学法学部、コロンビア大学MBA卒
2003年から2011年までドイツ証券、新生銀行にて企業の資金調達/M&A助言業務に従事後、ユナイテッド社で事業責任者、米国子会社代表などを歴任し大規模サービスの開発・グロースなどを手がける。「ITリテラシーがいらなくなる...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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中釜 由起子(ナカガマ ユキコ)
テックタッチ株式会社 Head of PR中央大学法学部卒。2005年から2019年まで朝日新聞社で記者・新規事業担当、「telling,」創刊編集長などを務める。株式会社ジーニーで広報・ブランディング・マーケティング等の責任者を経て2023年にテックタッチへ。日本のDX推進をアシストするシステム利...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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