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井無田仲と探る「変革のフロントライン」

松屋 古屋毅彦×テックタッチ 井無田仲──伝統と革新の両立を実現する、松屋銀座のデジタル変革の舞台裏

老舗百貨店の5代目が進める「リアル体験」の再定義

 消費行動の多様化やECの台頭など、百貨店業界はかつてない変革期を迎えている。創業150年を超える老舗百貨店の松屋は、2025年5月1日に銀座店が開店100周年を迎えた。長い歴史を持つ百貨店の中でもいち早くデジタル化に取り組み、リアルとオンラインを融合した新たな顧客体験の創出を進めている。創業家の5代目として同社を率いる古屋毅彦社長は、ITの力で「リアルの価値」をどう再定義していくのか。テックタッチ代表 井無田仲氏が、百貨店DXの現場とリーダーシップの本質に迫った。

老舗百貨店の5代目として「変革」の舵をとる

井無田仲氏(以下、井無田):創業150年を超える老舗百貨店の創業家の5代目として、2023年に松屋の社長に就任されました。その重責をどのように受け止めておられたのでしょうか。

古屋毅彦氏(以下、古屋):就任前の実務に徹していたときのほうが心理的に大変でした。トップとして方針を定められる今のほうが、これまで以上にやりがいをもって働いています。百貨店は伝統が長く、あらゆる判断に歴史的な背景があります。その中で変化を起こすことは簡単ではありませんが、だからこそ自分の言葉で方向性を示すことが大切だと感じています。

井無田:2018年頃からDXに取り組まれていると聞きました。詳しく教えてください。

古屋:大前提として、百貨店業界は全体的にデジタル化が遅れています。その理由は商売の慣習やビジネスモデルがデジタルと相性が悪いことが挙げられます。建物が大きく、働く人の所属や雇用契約も多岐にわたります。加えて、百貨店ならではの商慣習として、長年「単品ごとの在庫管理」を行わずとも運営できる仕組みがありました。各ブランドが独自に在庫を管理し、百貨店は売り場を貸す立場に近かったため、システム的に統合する文化が育ちにくかったのです。

井無田:なるほど、百貨店がテナントを束ねるようなビジネスモデルゆえの難しさですね。その構造を乗り越える難易度は高そうです。どのようにDXに取り組まれたのですか。

株式会社松屋 代表取締役社長執行役員 古屋毅彦氏2001年に株式会社松屋入社。2002年から2008年までアメリカで過ごし、コロンビア大学大学院修了。帰国後、2023年より現職の代表取締役社長に就任
株式会社松屋 代表取締役社長執行役員 古屋毅彦氏
2001年に株式会社松屋入社。2002年から2008年までアメリカで過ごし、コロンビア大学大学院修了。帰国後、2023年より現職の代表取締役社長に就任

古屋:まずはお客様と接する社外の領域からデジタル化を進めましたが、お客様からの反発もありました。90代のお客様から「(どんどんデジタル化され)優しくない」とお声をいただいたこともありました。

 そうした声に耳を傾けながら、お客様の理解を少しずつ得ていくことを大切にしています。幅広いキャッシュレス決済の対応など、レジ周りの対応は様変わりしました。ECサイト(オムニチャネルプラットフォーム)の「matsuyaginza.com」にも力を入れていて、デジタルがリアル(百貨店での買い物)を補完する存在になりつつあります。

井無田:古屋さんが大事にされていることに「顧客体験」や「従業員体験」がありますよね。社員の方々の働き方や意欲の向上にかかわる取り組みとDXの関係性について教えてください。

古屋:小売業は、従業員次第で売上が変わる仕事だと思っています。だからこそ、従業員の皆さんのモチベーションをどう高めるかがとても大切なのです。

 たとえば、松屋銀座では2023年9月から開店時間を午前10時から11時に変更しました。営業時間を短縮しても売り上げを落とさない工夫やアイデアが出るはずだと考えていましたし、実際に時間単位の売上は(就任する前の)1.5倍に上がりました。

井無田:それはすごい成果ですね。

古屋:ただ、デジタルの面ではまだ大きく遅れているのが現実です。たとえば、社員の交通費精算は、2023年まで毎週現金で受け渡していました。各部の代表者が経理部に行き、交通費の入った茶封筒を受け取り、部内に配布するという流れです。コロナ禍に社内課題を一つずつ解消する中、社内で最も不評だったのが、この交通費の精算でした(苦笑)。同じ時期に基幹システムを刷新し、振り込み対応に切り替えてからは不満の声はなくなりました。

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リアル体験の再定義──“買う理由”を生み出すオムニチャネル戦略

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この記事の著者

井無田 仲(イムタ ナカ)

テックタッチ株式会社 代表取締役慶應義塾大学法学部、コロンビア大学MBA卒
2003年から2011年までドイツ証券、新生銀行にて企業の資金調達/M&A助言業務に従事後、ユナイテッド社で事業責任者、米国子会社代表などを歴任し大規模サービスの開発・グロースなどを手がける。「ITリテラシーがいらなくなる...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

中釜 由起子(ナカガマ ユキコ)

テックタッチ株式会社 Head of PR中央大学法学部卒。2005年から2019年まで朝日新聞社で記者・新規事業担当、「telling,」創刊編集長などを務める。株式会社ジーニーで広報・ブランディング・マーケティング等の責任者を経て2023年にテックタッチへ。日本のDX推進をアシストするシステム利...

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