深刻化する人手不足は2030年代まで続くと予測される状況下、正社員の確保・定着は企業存続に関わる喫緊の課題だ。もはや、給与や福利厚生だけでは、優秀な人材を引き留められない。そこで今、「従業員体験(エクスペリエンス)」の向上が企業競争力の鍵として急浮上している。人材を確保・定着させるには、全従業員の働きやすさの向上、つまり「デジタルワークプレイス」の整備が急務だ。これをガートナーは従業員体験の向上とビジネス価値創出を目的とした、“変革的な活動”だと強調する。
「デジタルワークプレイス」が従業員体験を向上させる
これまでITエンジニアに限定されがちだった開発環境の充実、これを全社員に広げることが求められている。快適で効率的な「デジタルワークプレイス」を提供し、“柔軟な働き方”を支援すること。それこそが従業員体験の向上につながるからだ。
思い返せば、コロナ禍を契機に急速に普及した「リモートワーク」は、デジタルワークプレイスの設計や運用に大きな変化をもたらした。従業員がオフィスに集まることなく多様な場所で働くことが前提となり、どこからでも安全にアクセスできるIT環境の整備が進んだ。クラウド基盤の活用、コラボレーションツールやオンライン会議システムの導入など、従業員のコミュニケーションとコラボレーションのあり方は大きく変わった。
一方、物理的な距離が生じたことで、コミュニケーションの希薄化やチーム間の連携不足といった、“新たな課題”も顕在化している。これらを解消するため、従業員体験の「質」を高める取り組みが進んでいる最中だ。デジタルワークプレイスは単なるITインフラではなく、従業員がストレスなく集中できる環境を「体験」としてデザインし、エンゲージメントを促進するプラットフォームの役割を担う。また、リモートワーク環境下ではセキュリティリスクが増え、データ管理も複雑化するなど、これらを包括的に管理・監視する運用体制の強化も求められる。
そこでガートナーでは、デジタルワークプレイスを「いつでもどこでも柔軟に働ける、デジタルな仕事空間」と定義。単なるITツールの導入にとどまらない、人・組織における働き方や成長戦略の変革につながる包括的な活動だとしている。同社 アナリストのダン・ウィルソン氏は、「デジタルワークプレイスは、単なるITインフラの維持管理ではなく、『従業員体験の向上』『ビジネス価値の創出』を目的とした、変革的な活動だ」と話す。
デジタルワークプレイスは、ヘルプデスクなどのITサポートに代表されるエンドユーザー向けサービスが進化した姿であり、成熟度モデル(下図)で表せるという。たとえば、従来的なエンドユーザー向けサービスは、トランザクションベースの“受動的”なものであり、サイロ型のオペレーションが特徴的だ。ガートナーが提示する成熟度モデルでは、「レベル1(受動型)」と「レベル2(適応型)」に相当する。
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一方、デジタルワークプレイスは、第2世代の「エンドユーザーコンピューティング(EUC)」とも呼ばれるものであり、オペレーションやアプリケーション、従業員エクスペリエンスといった要素を統合したものだ。つまり、従来的な「困った時のサポート」ではなく、「先手を打ってサポートする」形への転換を意味する。これは成熟度モデルにおける「レベル3(支援型)」以上、特に「レベル4(加速型)」以上がデジタルワークプレイスにあたるとした。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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