アイ・ティ・アール(ITR)は、同社が11月18日に発刊した「国内IT投資動向調査報告書2026(IT投資動向調査2026)」に関するアナリスト座談会を11月25日に開催。同社 プリンシパル・アナリスト 三浦竜樹氏、シニア・アナリスト 水野慎也氏、アナリスト 村井真人氏の3名が調査結果から見えてきた日本企業におけるIT投資の動向について解説した。
IT投資動向調査は、ITRが毎年発行しているIT投資動向を予測する調査報告書。IT投資動向調査2026では、国内企業に所属し、主にIT戦略やIT投資の意思決定に関与する役職者2,214件の有効回答に基づき、IT予算の増減傾向、IT戦略上の課題、DXおよびAIへの取り組み状況、そして110におよぶ製品・サービスの投資意欲を定点分析した結果が示されている。
IT投資の方向性
調査結果によると、2025年度のIT予算を前年から増額した企業の割合(「10%未満の増加」から「20%以上の増加」の合計)は47%に達し、過去最高を更新。また、IT予算の前年度比増減に重み付けをして算出した「IT投資インデックス」は、2025年度の実績で4.10となり、過去最高値であった2006年度の3.88を上回る結果となった。2026年度予想も3.90と、引き続き増額傾向にあると予測されている。
村井氏は、この増額の背景には価格上昇(値上げ)の影響があることを指摘。売上高に対するIT予算比率は、2025年度に3.2%を記録し、これは2013年度の3.5%に次ぐ高い水準だとした。この内訳を見ると、新規投資の比率が1.0%であるのに対し、定常費用の比率が2.1%に達しており、経常費用の伸びが目立っている。このことから、村井氏はクラウドベンダーの値上げや人件費の高騰といったコスト増が予算を押し上げている可能性を示し、「純粋な新規戦略投資の増加ではないだろう」との見方を示した。
このIT投資インデックスを業種別で見ると、金融・保険(4.97)、建設・不動産(4.92)、製造(4.65)が上位を占める結果が示された。注目すべき点として、村井氏は、2026年度予想で「卸売・小売」が4.00と、2025年度実績の3.47から大幅な増加に転じていることを挙げる。この背景には、「物流の2024年問題」に関連する「物流効率化法」の改正内容への対応や、バース管理(トラック待機時間の予約・短縮)システムの導入など、業務効率化のためのIT投資があるとの見解を示した。
一方で、製造業や建設・不動産は2026年度予想で実績を下回るなど、保守的な傾向も見られる。また、売上高に対するIT予算比率では、金融・保険が6.6%で最も高く、情報通信(4.0%)、公共(3.2%)が続く結果となった。卸売・小売は1.9%と全体平均(3.2%)を下回っており、投資の余地が大きいことがうかがえるとした。
IT戦略における重要テーマ
IT戦略上の最重要課題をランキングにした調査結果では、前回の調査で1位だった「デジタル技術によるイノベーションの創出」が2位に順位を下げ、今回の調査では「システムの性能や信頼性の向上」が1位にランクイン。また、「既存システムの統合性強化」が3位、「サイバー攻撃への対策強化」が4位にランクインしており、「攻め」の投資とあわせて「守り」の投資の重要性が増しているとした。
これは、ここ1年で発生した大規模なシステム障害やセキュリティインシデントの増加が、企業の危機意識を高めた結果だと3者は指摘。水野氏は、「今までも危機感はあったものの、いよいよ捨ておけなくなったということだろう」と分析した。
DXへの取り組み状況
DX関連予算を計上している企業は8割強(81%)で横ばいであるものの、DXに向けた体制・プロセスの整備は着実に進展しているとの見解が示された。下図のとおり、「デジタル戦略遂行のための人材配備を行っている」企業は40%、「部門を横断したデータ活用が行える仕組みやプロセスの整備に着手している」企業は32%、「社内にAI、IoT、5Gなどの先端技術の活用を研究するチームやスタッフを置いている」企業は21%と、いずれも過去最高値を記録した。
しかし、DXの取り組み成果を定量化した「DX実践度スコア」は、調査開始以来初めて34.7点で微減した。これについて水野氏は、「ワークスタイルの変革」や「業務の自動化」といったDX初期フェーズのテーマで「成果が出ている」とする企業の割合が横ばいまたは微減したことに触れ、その背景には「生成AIの登場などにより、回答者が認識する『成果』の基準やレベルが引き上がったため」だと分析する。
AIへの取り組み状況
AI関連予算を計上している企業は75%を超え、2026年度予想でも半数以上(54%)が増額を予定していると回答した。
主要なIT動向の重要度指数を見ると、新たに追加された「AIの信頼性/セキュリティ/リスクの管理」が、「全社的なデジタルビジネス戦略の遂行」に次ぐ2位にランクインしている。これは、AIの業務適用が進む一方で、そのガバナンスやリスク管理といった“守りのAI”の重要性が広く認識されていることを示すものだとした。
AIの業務・用途別活用状況では、営業(36%)、マーケティング(31%)、カスタマーサポート(29%)といったCX(顧客体験)領域が上位を占めている。しかし、活用予定(2027年度以降を含む)で見ると、データサイエンスや教育・研修、法務など、多様な領域へのAI適用が今後進むと予想されている。
IT人員とデジタル人材の動向
総従業員数に占めるIT人員比率は、2025年度に6.1%となり、前年(6.7%)から減少した。特に、IT部門の正社員比率は2.7%と、2024年度の2.9%から減少。業種別では、製造(2.9%→2.5%)、卸売・小売(2.7%→2.4%)、サービス(2.7%→2.2%)でこの減少傾向が顕著であった。一方で、2026年度計画では、IT部門の正社員比率が2.9%と拡充される傾向が示されている。
人材配備策を調査した結果では、中途採用/キャリア採用(57%)が「現在実施」項目で最も高く、次いで新卒採用(54%)が続く。注目すべきは、定年後や再雇用者などのシニア人材の活用が15%と、一定の企業で重要視されている点であると三浦氏は述べた。
IT支出の意思決定権について水野氏は、「経営企画/デジタル推進部門や業務部門、経営者など、非IT部門への権限分散が進んでいる」ことを指摘する。これは、「DXやAIといった全社的な戦略テーマが増えたことで、実務に近い部門や経営層がIT予算の裁量権を持つようになったことの表れといえる」と説明した。
製品・サービス分野の投資意欲
2026年度に新規導入または投資増加が期待される製品・サービス分野のランキングでは、AI関連が上位を寡占する結果となった。
特に今回の調査から追加された「AI支援開発」が、新規導入可能性と投資増減指数の両方で上位に食い込んだことについて、「AIを活用したアプリケーション開発プロセスの効率化に対する関心が高いことを示している」と三浦氏は述べた。
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