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福井県が実践する“内発的動機”を引き出す意識改革──職員が携帯する「5つのクレド」の体現で自分ごと化

#5:福井県 | 知事のリーダーシップと様々な施策で職員の内発的動機を引き出す

 自治体DXは職員の意識改革なくしてあり得ない──人々は異口同音にそう言うが、これこそがDXの本丸であり、最も難易度が高いことである。明治時代から連綿と受け継がれてきた自治体職員の保守的な意識を改革することは、容易ではないからだ。そのなかにおいて福井県では、知事のリーダーシップと様々な施策により職員の内発的動機を引き出し、成果を上げている。本稿では、福井県 DX推進監(CDO)の前側文仁氏、および未来創造部 DX推進課の皆さまにインタビューを行い、県庁職員の意識改革に関する諸施策や実効性、苦労や課題等についてお聞きしたので紹介する。

外部評価で上位にランクインする、福井県のDX

 福井県は人口約74万人、全国43位と小規模な広域自治体である。2024年3月に北陸新幹線が福井県敦賀市まで延伸したことは記憶に新しいだろう。それにともない福井駅周辺は再開発され、観光客が大幅に増加するなど、街は活気に溢れている。

 そんな同県は、自治体DXの分野でも注目を集めている。野村総合研究所が毎年発表する「都道府県別デジタル度調査(2022年)」では1位[1]、日本総合研究所の「都道府県別自治体DXの進展状況(2022年)」では4位[2]になるなど、その類の調査では上位にランクインすることが多い。また、日本経済新聞社主催の「日経自治体DXアワード」ではDXリード部門賞を受賞するなど、自治体DXにおける先進県の一つである。

 様々なDX施策を実践している。地域課題の解決策として、県内の除雪状況をリアルタイムに画像で把握できる仕組みを用意したり、AIの画像解析で道路上の不具合を自動的に検出できるシステムを開発したり、スマート農業ではドローンを活用して適正な肥料の量を診断したりするなど、DX施策の事例は枚挙に暇がないほどだ。

 こういったDX施策を次々に企画・運営するには、それを下支えする組織能力が必要である。福井県では、知事のリーダーシップと様々な仕組みにより職員の意識改革を図ってきた経緯があり、それがDX施策という成果として結実していると考えられる。

 本稿では、筆者が福井県庁を訪問して、DX推進監(CDO)の前側文仁氏および未来創造部 副部長の角浩吉氏、同部DX推進課 参事の桑野好造氏に、職員の意識改革を中心に様々な話をお伺いした。

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(左から)福井県 未来創造部 DX推進課 参事 桑野好造氏、同部 副部長 角浩吉氏、

同部 DX推進監(CDO) 前側文仁氏

知事のリーダーシップ × 職員の意識改革を促す「クレド」

 福井県の組織変革でまず強調したいのは「知事のリーダーシップ」である。2019年に現職の杉本達治氏が知事に就いてから、職員の意識は劇的な変化を遂げたという。

 前側氏は「杉本知事は就任当初からデジタル化を強力に推進し、『デジタルが当たり前』という姿勢を明確にして、自らの言動で実際に示してきました。それが職員全体の意識改革につながったと思います」と話す。

 その一つの実践が、予算編成や政策立案を行う際に各種団体や関係者の意見や要望を直接聞き取る「知事ヒアリング」の原則リモート化である。同県では、知事ヒアリングの約9割がリモートで実施されており、知事が庁内にいる場合でも自身の執務室からオンラインで参加することが常態化しているという。このトップダウンでの実践が、部局長クラスの意識改革につながっているそうだ。

 会議のオンライン化にともない、会議を前提とした資料の横型化や事前配布、議事進行の標準化なども進んだ。オンラインで心理的障壁が下がるため、若手職員が発言しやすくなったり、関係者が会議を傍聴しやすくなったりと、組織の風通しが良くなる効果も生まれている。

 オンライン化の風土は職員のリモートワークの普及にもつながっているという。全職員がリモートワークを一度は経験しており、他の自治体と比較して進んでいるといえるだろう。合わせて、ペーパーレス化も自然と促進されている。

 さらに、福井県では「クレド」と呼ばれる行動指針が記載された小さなカードを全職員に配布して、意識改革を図っている。桑野氏は「クレドはいつも持ち歩いています」と首から下げた職員証のケースから素早く取り出して見せてくれ、筆者は思わず「さすがですね」と感嘆の声を上げた。クレドには、次の5つが記載されている。

画像を説明するテキストなくても可

引用:「福井県職員クレド」(PDF)

[クリックすると拡大します]

 実に良い行動指針だ。筆者はこの中で「『効率化』って決める覚悟」が印象に残った。効率化とは、これまでの業務の一部をやめること。前例踏襲の文化が根強い自治体では難しい傾向にあり、その意思決定には少なからず覚悟も必要であろう。このクレドには、そういったことを職員の側からうまく表現されていると感じた。

 やはり組織の構成員はリーダーを良く見ているのだ。企業では社員が社長を、自治体では職員が知事を観察している。今さらながら、リーダーの言動がいかに大切かを実感する話をお聞きしたのであった。

[1] 野村総合研究所「DCIにみる都道府県別デジタル度」(2023年4月19日)

[2] 日本総研「データから見る都道府県別自治体 DX の進展状況」(2022年10月25日)

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職員の“やる気を喚起する”多方面からのアプロ―チ

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この記事の著者

角田 仁(ツノダ ヒトシ)

1989年に東京海上火災保険に入社。主にIT部門においてIT戦略の企画業務を担当する。2015年からは東京海上のIT企画部参与(部長)および東京海上日動システムズ執行役員。2019年、博士号取得を機に30年間務めた東京海上を退職して大学教員へ転じ、名古屋経済大学教授や千葉工業大学教授を歴任した。現在...

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