「AI導入をコスト削減の話としてしか捉えていない経営層があまりに多い」──アドビの阿部成行氏はそう言い切る。ブランドらしさや顧客への理解は、これまで一部の社員の勘と経験に頼るしかなく、言葉にできないまま埋もれてきた。それが今、変わり始めている。理由はAIがもたらす2つの変化だ。顧客と企業のブランド接点が、検索エンジンからAIの回答へと移りつつあること。そして、コンテンツ制作や顧客対応をAIエージェントが担うようになり、人の目だけではブランドの一貫性を守れなくなってきたことだ。クリエイティブテクノロジーの現場を30年以上見てきた阿部氏に、この変化の中で企業がどのように対応すべきかを聞いた。
アドビ株式会社 デジタルエクスペリエンス事業本部 ジャパントランスフォーメーション本部
プリンシパルビジネスデベロップメントマネージャー
コスト削減の議論に、顧客理解という視点が抜け落ちる理由
「経営層とお話しすると、AI導入は社内でいかに活用して生産性を上げるかというコスト削減の視点で語られる方がほとんどです。顧客体験の文脈で捉えている経営層は、本当に少ないのが現状です」と阿部氏は語る。コスト削減が重要なのは間違いないが、企業は同時にトップライン、つまり売上も伸ばす必要がある。AIでどうトップラインを伸ばすのかは、まさに顧客体験の話だという。
アドビが一貫して顧客体験や顧客理解を語り続けてきたのは、戦略として掲げたからではなく、自社が痛みを伴って辿ってきた道だからだと阿部氏は明かす。阿部氏はもともと、DTPソフトのアルダス(1994年にアドビが買収)や、「Flash」「Dreamweaver」などで知られるマクロメディア(2005年にアドビが買収)に在籍し、買収を経て30数年ほどアドビ系列に身を置いてきた。
当時はパッケージビジネスで、2年に1回バージョンアップする、いわば「社内都合」でマーケティングをしていた時代だ。そこにインターネットが普及し、顧客の行動を理解できるアナリティクス技術が発展した。アドビはその導入が早く、Webサイトだけでなく Photoshopのようなツール自体にセンシング技術を向け、ユーザーがどの頻度で立ち上げ、どの機能を使うかを分析した。すると、一生懸命開発した新機能のほとんどが実際には使われていないと分かった。機能重視の負の連鎖である。
リーマンショックや技術革新のスピードにも直面し、「このままではいけない」という議論から、サブスクリプション(SaaS)への転換、データドリブン経営へと移っていった。「その起点は、やはり『顧客の行動を理解する』ことでした」と阿部氏は振り返る。
たとえばPhotoshopのトライアル版をダウンロードした顧客のデータを見ると、直後に起動する人と、3日後、1週間後に起動する人とでは、最終的な購入レートがまったく違う。であれば打つべき手は「いかに早く立ち上げてもらうか」に変わる。「これは企業のロジックを押し付けるのではなく、興味を持ってダウンロードしてくれたお客様に、その価値を正しく理解してもらえるコンテンツをタイムリーに届けるための努力です」と阿部氏は言う。顧客体験とは派手なキャンペーンを打つ話ではなく、もっと泥臭く、顧客のしたいことに寄り添い続けること。それをデジタル化してきたのがアドビの歴史だったという。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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