「Artificialという言葉は好きではない。偽物のように聞こえるからだ」。2026年9月22日の国連総会で、ドナルド・トランプ米大統領は人工知能(AI)を今後「スーパーインテリジェンス(SI)」と呼称する考えを表明した。この変更は言葉遊びにも見える。しかし、そこにはAIを規制より成長、慎重論より国際競争力の文脈で語ろうとする政権の姿勢がにじむ。その政策形成で存在感を増しているのが、大統領科学技術諮問委員会(PCAST)である。学術界中心だった従来の構成と比べ、現在は大手テック企業や先端エネルギー企業の経営者が目立つ。これは米国の科学技術政策に何をもたらすのか。そして「SI」という呼び名は、技術用語として社会に根づくのだろうか。
「PCAST」の役割 これまでの提言を振り返る
「PCAST(President’s Council of Advisors on Science and Technology)」は、大統領に科学技術、教育、イノベーション政策について助言する諮問組織である。現在につながる組織形態は、1990年にジョージ・H・W・ブッシュ政権下で整えられた。以後は政権交代にあわせて再設置され、科学技術だけでなく、経済、安全保障、教育、保健、社会政策に関わる論点を扱ってきた。2025年1月には第2次トランプ政権が大統領令でPCASTを再設置し、大統領に科学技術、教育、イノベーション政策に関する助言を行う役割をあらためて定めている。
そして、PCASTは行政機関ではない点も重要だ。研究者、産業界、教育関係者らが連邦政府の外から参加し、大統領や政府機関に政策上の選択肢を示す。助言がそのまま政策化されるわけではないが、政権の優先課題を整理し、関係省庁の施策や予算、規制をめぐる議論に影響を与えることがある。従来は大学や研究機関の研究者、国立アカデミー会員を中心に、企業の技術責任者らも加わる顔触れだった。
PCASTが扱ってきたのは、個別製品や特定企業の課題ではない。2012年には、スマートフォンの普及で需要が高まる中、政府が保有する電波の周波数帯を民間と共有し、より効率的に活用する必要性を提示。教育分野では、K-12(幼稚園から高校まで)段階と大学段階のSTEM教育を取り上げ、科学、技術、工学、数学分野の人材育成を提言した。ナノテクノロジー、サイバーセキュリティ、感染症対策、先進製造……時代ごとの重要テーマを扱っている。
諮問機関の提言と、後年の政策・市場の変化を一対一で結びつけることはできない。それでもPCASTの報告書は、政権が重視する課題を示し、政府内外の議論の土台となることがある。
今回、第2次トランプ政権下のPCASTで注目されるのは、任命メンバーの顔触れである。2026年3月にホワイトハウスが発表した初期メンバーには、AI向け半導体を担うNVIDIAのジェンスン・フアン氏、AMDのリサ・スー氏、クラウドや企業システムに強みをもつOracleのサフラ・キャッツ氏とラリー・エリソン氏、Dell Technologiesのマイケル・デル氏が入った。加えて、先進原子力のOkloのジェイコブ・デウィット氏、核融合開発のCommonwealth Fusion Systemsのボブ・マムガード氏も加わっている。
Google共同創業者のセルゲイ・ブリン氏、Metaのマーク・ザッカーバーグ氏、ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ共同創業者であるマーク・アンドリーセン氏らを含むこの顔触れからは、AIのモデル開発だけでなく、半導体、クラウド、データセンター、電力、投資を一体の競争基盤とみる政権の姿勢がうかがえる。なお、共同議長には、AI・暗号資産担当特別顧問のデビッド・サックス氏と、科学技術政策局(OSTP)局長のマイケル・クラツィオス氏が就いた。
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大手テック企業の経営者や投資家が多く加わったことで、企業の実務知見を政策に反映しやすくなった。政策で取り上げるテーマや優先順位は、委員会の構成によって少なからず影響を受けるからだ。
たとえば、Oracleは政府向けクラウドやデータ基盤の有力な供給企業でもある。こうした企業の経営者がPCASTに参加することには、連邦調達や安全保障に関わる実務的な知見を政策に生かす意味があるだろう。一方で、委員会の評価は顔触れだけでは決まらない。提言の内容、利害関係の開示、調達手続きの透明性、異なる立場の専門家の意見を反映する運営体制がともなっているかを見る必要がある。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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