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「AI」を「SI」と呼ぶトランプ政権の野望 ビッグテック集結の諮問機関PCASTが指す真意

「SI」は浸透するのか? AI市場を左右する規制・インフラ

 現在のPCASTの顔触れからは、AIをソフトウェアの問題ではなく、半導体、電力、データセンターなどを含む、産業全体の課題として扱おうとする政権の姿勢がうかがえる。その影響は、規制とインフラという2つの領域に表れそうだ。

 第一に、規制をめぐる議論である。トランプ政権はAIを国際競争力の問題としてとらえており、規制がAIの開発を遅らせ、中国などとの競争を不利にするとみているようだ。国連総会での演説においてトランプ氏は、AIを国際的に管理する構想を批判し、「産業革命以上の規模になる」技術の成長を妨げるつもりはないと述べた。

出典:ホワイトハウス(whitehouse.gov)
出典:ホワイトハウス(whitehouse.gov)

 もっとも、これは規制がなくなるという意味ではない。安全保障、輸出管理、独占禁止、個人情報、著作権、差別、雇用、消費者保護など、AIをめぐっては既に多くの制度やルールが動いている。今後は、連邦政府と州政府の権限をどう整理するのか、開発促進と事業者の説明責任をどう両立させるのか、安全性を誰がどのように担保するのかが争点になっていく。

 第二に、AIを支えるインフラである。高性能半導体、データセンター、送電網、発電設備、冷却用水、通信回線、熟練人材は、いずれもAI投資を左右する条件となっている。先進原子力や核融合に関わる企業関係者がPCASTに加わったことも、AIの計算能力を確保するには電力供給も欠かせないという政権の認識をうかがわせる。

 AIの計算基盤を重視する政策は、データセンターの建設や電源確保をめぐる議論を加速させる。もっとも、環境影響評価、送電網の整備、地域との合意形成、電力料金、核燃料や放射性廃棄物の扱いなど、安全規制については許認可の手続きを早めるだけで解決する問題ではない。

 実際、州・自治体の中には、大規模データセンターが電力網や水資源、地域の電気料金に与える影響を懸念し、建設の一時停止や許認可の見直しに動いているところもある。たとえば、ニューヨーク州は2026年7月、50MW以上の電力を使う大規模データセンターについて、州の許認可を最長1年間保留する措置を導入した。連邦政府がAIインフラの整備を急いでも、立地、電力、水、地域負担をめぐる調整は、州・自治体の政策と住民の合意に左右される。

 AI投資を国家競争力の強化につなげるには、基盤整備にともなう負担を誰が負い、地域社会や環境にどう配慮するのかを、政策の中心に据える必要があるだろう。

 そして、トランプ氏は国連総会で、英語の「Artificial」には偽物のような響きがあるとして、AIを「Super Intelligence」と呼ぶ考えを表明した。“人工”より“超”のほうが、技術の前進や米国の優位を印象づけやすいようだ。政権は、この呼称を「スーパーインテリジェンス(SI)」として、政府内の文書や発信にも広げようとしている。国務省の国際機関局では、対外文書などで「SI」を用いるよう職員に指示したとの報道もある。

 ただし、SIが技術用語として定着するかは別問題だ。ここで注意したいのは、政権が用いるSuper Intelligenceと、AI研究で使われてきた“Superintelligence”が、綴りが近くても同じ意味ではないという点だ。本稿では、トランプ政権が打ち出す呼称を「スーパーインテリジェンス(SI)」、AI研究で使われる仮説上の概念を「超知能」と表記する。

 AI研究における超知能は、科学研究、問題解決、創造性、社会的な判断を含め、ほぼあらゆる知的作業で人間を大きく上回るような、まだ実現していない“将来のAI”を指す。AI研究では、文章作成、画像生成、プログラミング支援などに使われる現在のAI、人間と同じように幅広い知的作業をこなせるAGI(汎用人工知能)、さらにその先にある超知能を区別して考える。

 現在の生成AIは、特定の作業で人間を上回る場面がある一方、一般にAGIや超知能には達していないとみなされている。現行のAIサービスまで一律にSIと呼べば、研究者が使ってきた超知能と、政府が広めようとする呼称が混同されかねない。

 呼称の変更が定着しにくい例は、過去にもある。IBMはWatsonを世に出した際、AIを人の判断を支える「Cognitive Computing」や「Augmented Intelligence」として打ち出した。しかし、市場ではAIという総称が広く定着したことで、これらは一般的な呼称とならなかった。研究者、企業、開発者、メディア、利用者が同じ意味で使いつづけなければ、言葉は定着しない。既に研究、投資、規制、教育、日常語に浸透したAIを「SI」に置き換えるには、既存の技術用語との混同を避け、国際的にも受け入れられる必要がある。

 “人工”という言葉をフェイクのようだと嫌ったトランプ氏にとって、SIは成長と優位を象徴するブランドなのだろう。だが、発言がたびたびファクトチェックの対象となる同氏が、AIの名称について「より正確だ」と言い切る場面には、少し皮肉な味わいがある。AIをSIと呼び替えても、性能や社会的なコスト、政策の効果まで変わるわけではない。

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日本に問われるAI基盤と実装力

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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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