テラスカイは2026年10月2日、年次イベント「TerraSkyDay 2026」を開催した。基調講演のテーマは、「さぁ、ともにAI・量子ワールドへ!」。創業20周年を迎えた同社は、AIと並ぶ成長の柱に量子技術を据えている。基調講演には、量子ソフトウェアを開発するグループ会社Quemixと内閣府の担当者も登壇し、量子シミュレーションの産業応用や、2030年に利用者1000万人を目指す政府の量子戦略について語られた。AI・AIエージェントに注目が集まる今、日本企業が量子技術に目を向ける意味を考える。
創業20年のテラスカイ AIと並ぶ柱に「量子」を掲げる
テラスカイは2026年に創業20周年を迎え、さらなる成長に向けて事業構造の転換を進めている。同社 代表取締役社長の佐藤秀哉氏は、クラウドインテグレーターの先駆けとして市場を切り拓いてきた歩みを振り返り、時代の変化にあわせて自らも進化しつづける必要があると語った。
「かつてクラウドインテグレーターを標榜した私たちが、今や社内をあげて『AIインテグレーター』へと進化を遂げようとしている」(佐藤秀哉氏)
基調講演では、企業のIT基盤構築からAIの実装・運用までを一貫して支援するビジョンを提示。その具体策が「3+1」戦略だ。顧客の業務変革に向けた3つのアプローチと、システム開発の手法そのものを変える1つの取り組みからなる。
第1のアプローチは、AI活用による業務効率化のコンサルティングだ。企画から導入後の定着まで伴走し、業務プロセスのどこに人間が介在すべきか整理する。第2のアプローチは、時系列を考慮した「AI Ready」なデータ基盤の構築である。履歴と最新情報が混在するデータでも、AIが「いつのデータか」を正確に識別した上で参照できるようにするという。第3のアプローチは、自社AIプラットフォーム「mitoco Buddy」の提供だ。AIと外部ツールやデータをつなぐ標準規格MCP(Model Context Protocol)に対応しており、ユーザーはmitoco Buddyを窓口に、既存の複数システムをまたいだ操作をまとめて実行できる。
そして、これらに加わる「+1」がAI駆動開発プラットフォーム「BLADE」だ。同社が20年間かけて蓄積した開発ノウハウに加え、プロンプトやRAG基盤を組み込むことで、高品質なシステムを短期間で構築できるようになるという。
そして、AIと並ぶもう1つの柱として同社が位置づけるのが量子技術だ。佐藤氏は、「FTQC(誤り耐性量子コンピュータ)は2028年頃に完成するといわれている」と述べ、2030年には企業が商用利用できるようになるとの見通しを示した。FTQCは、計算中に生じる誤りを訂正しながら動作する量子コンピュータで、実用規模の計算を行うために必要とされている。
量子コンピュータのハードウェアは、超伝導、イオントラップ、中性原子、光など複数の方式が開発を競っている。テラスカイは特定の方式に依存せず、量子アルゴリズムの開発に注力する方針だ。「多様なハードウェア方式がしのぎを削る中、私たちは量子アルゴリズムを極め、社会課題を解決するソリューションを届けていく」と佐藤氏は語った。
Quemixが狙う「量子シミュレーション」
テラスカイにおける量子戦略の中核を担うのが、2019年に設立したグループ会社のQuemixだ。基調講演では、同社 副社長COOの中土井利行氏が量子技術の意義、ビジネス適用の実情について言及。中土井氏は、「量子技術は単なる計算手段ではなく、人類が夢見た未来や地球規模の課題解決を牽引する技術である」と述べ、新材料の開発や環境問題への対応に貢献できると強調した。
古典コンピュータ(従来型のコンピュータ)には、問題の規模が大きくなると計算量が爆発的に増え、現実的な時間では解けなくなる課題がある。新薬や新素材の開発につながる分子シミュレーションは、その代表例だ。分子内の電子状態を厳密に計算しようとすると、扱う電子の数が増えるにつれて必要な計算量が急激に膨らむ。量子コンピュータは、こうした問題の一部で古典コンピュータを大きく上回る速度を実現できると期待されている。
量子コンピュータの用途としては最適化問題や機械学習なども挙げられるが、Quemixが注力するのは、物質や分子の振る舞いを量子力学に基づいて計算する「量子シミュレーション」だ。中土井氏はこの分野について、「理論的・物理的に既存のコンピュータより確実に高速化できることが証明されている領域だ」と説明する。具体的には、電池材料や半導体材料の開発、創薬におけるドッキングシミュレーション(薬の候補となる分子が標的のたんぱく質にどう結合するかを予測する計算)、CAE(構造解析・熱解析)などへの適用を想定し、製造業をはじめとする産業界に大きな変革をもたらし得るとの展望を示した。
Quemixは、既にホンダや三井金属と資本業務提携を結んでいるほか、日産自動車や出光興産などの大手企業とも共同研究・共同開発を進めている。協業を通じて、実際の業務課題に即したユースケースをつくる狙いだ。政府関連の事業では、委託事業として量子人材の育成プログラム(2025〜2027年度)を実施するほか、補助事業を活用したユースケース実証や、材料シミュレーション基盤「Quloud」の開発も手がける。
中土井氏は「産業化にはまだ歳月を要するが、大きな波が到達してから慌てて参入しても間に合わない。今まさに現場でのユースケース開拓が問われている」と述べた。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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