Service Cloudでの20年以上にわたる市場リーダーシップを活かし、ITサービス管理(ITSM:IT Service Management)市場に参入したセールスフォース。既存ITSMツールとの違いはどこにあるのか、AIエージェントがITサービスの領域にもたらすインパクトを探る。
顧客管理で培ったノウハウで、ITSM市場に参入
セールスフォースは、2025年10月からAgentforce IT Service(2026年9月にSalesforce IT Serviceに名称変更:以下、IT Service)の一般提供を開始した。この製品は、Service Cloud時代から提供してきたITSM領域の機能群を整理し、ITサービスに特化した製品としてリブランディングして提供を開始したものになる。従業員サービスの観点で見ると、ITサービスはその一部に過ぎない。一方で、ITサービスは、多くの部署が関与する従業員体験の一部と考えることもできる。セールスフォースは「Customer 360」を提唱し、顧客体験の向上のノウハウを蓄積してきた。従業員体験の観点から製品を提供するのは、同様のアプローチが適切と考えてのことになる。
図1:ITSMのユースケースに特化した「Salesforce IT Service(旧称:Agentforce IT Service)」
(出典:セールスフォース・ジャパン)
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コロナ禍で普及したリモートワークの影響で、人事や総務への勤怠管理に関する相談が増えていたこともあり、その需要に応える必要もあった。ITSMと聞いて、真っ先に連想するのはインシデント管理だろう。システム障害のような予期せぬ事象が発生すると、ビジネス継続性に影響が出る。影響範囲の拡大を抑えながらの一刻も早い復旧が求められるため、このプロセスを改善したいと考える企業は多い。障害の再発防止に向けては、トラブル解決後のプロセスも重要だ。そこで、IT Service Cloudでは、インシデント管理はもちろん、問題管理や変更管理など、ITSMで重要な領域もカバーしている。このようにIT Serviceは、ITサービスのユースケースを想定して設計されているものだが、人事のユースケースにも対応可能だ。
従業員体験は大きくサービスを「提供する側」と「受ける側」に分けられる。通常、どちらの体験も面倒で時間がかかることが多い。たとえば採用では、入社前のプロセスから既に従業員体験は始まっている。ポジションへの応募者たちがプールに入るところから始まり、数回の面接を経て、オファーを受けて入社。その後も、職場で活躍できるように、オンボーディングプログラムの受講など、従業員体験は退職まで続いていく。退職しても縁が切れるとも限らない。アルムナイメンバーとして活動すれば、体験はさらに続く。この一連の活動すべてに関与し、体験の質を向上させることが、セールスフォースの従業員サービス製品の設計思想の根幹にある。一人ひとりに、より良い従業員体験を提供することで、企業は事業の安定に貢献するITサービスを、従業員サービスの一環で提供できるようになる。
既存ツールと一線を画す「会話中心」の考え方
IT Serviceの従業員体験とはどんなものか。三宮健太氏(セールスフォース・ジャパン 製品統括事業本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティングシニアマネージャー)は、その特徴を「プロセス中心」から「会話中心」への転換にあると説明する。一般的なITSMツールでは、サービスデスクへの問い合わせ集中を避け、緊急度に応じた対応を行えるよう、セルフサービスポータルを提供している。通常、エンドユーザーがトラブルに直面すると、ポータルにアクセスし、FAQやナレッジベースを自力で探して一次解決を試みなくてはならない。しかし、問い合わせをしようにも、ポータルにログインできないことすらある。
株式会社セールスフォース・ジャパン 製品統括事業本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部
プロダクトマーケティングシニアマネージャー 三宮健太氏
チケット管理を中心に、プロセスの効率化に焦点を当ててきたのが従来型のITSMだが、効率化してもその仕組みが根本から変わるわけではない。IT部門を始めとする関係部署の手作業は残り続ける。そこでセールスフォースは、プロセス中心という前提そのものを見直し、AIエージェントが介在する会話中心の仕組みに変えることが望ましいのではないかと考えた。体験そのものの質の向上にアプローチしようとしたのだ。Agentforce提供開始前から、セールスフォースは現在の会話中心に近い設計の製品を提供していたが、AIエージェントが体験を動かす前提ではなく、ポータルサイトにチャットボットを載せた仕組みにとどまっていた。AIエージェントが登場したことで、テクノロジーの進化を取り入れた、本当の意味での会話中心の体験を提供できるようになったといえる。
会話中心で手続きを進めるとは、従業員がどの部署に連絡すればよいかを気にしなくても済むということ。これはITSMのユースケースに限らず、人事のユースケースでも同様だ。入社時のPC支給やソフトウェアインストール、あるいは会社支給のスマホの画面が割れたなどのトラブルが発生した場合、従業員は会話型ウィンドウから状況を入力する。すると、IT Serviceが故障対応のエージェントに取り次ぎ、従業員に試してほしいことを提案する。買い物中に店員に何かを尋ねてやり取りをするのと同様の感覚で手続きが完結し、自分でナレッジ記事を探す必要もない。その裏側では多くのAIエージェントが連携してタスクを実行しており、従業員はSlackのほか、Microsoft Teamsや既存のポータルサイトなど、どの会話型ウィンドウからでもAIエージェントを起動できる。
タスクの割り当てもAIエージェントが行う。会話型ウィンドウに自然言語で入力するだけで、そこから体験が始まる。ユーザーに部署の壁を意識させない体験設計は、オムニチャネルでのやり取りを実現するCustomer 360とも共通するものだ。ユーザーだけでなく、IT運用担当者の体験も会話起点で進む。インシデント発生から解決までのプロセスは、短くて30分、長い場合は3時間程度を要していた。ユーザー同様にIT運用担当者も、会話型ウィンドウに「今、何が起きているか?」と入力すれば、AIエージェントが社内のインシデント数と内訳を提示し、解決を指示すると、担当者に作業を割り当てて進めてくれる。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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