2025年頃から、よく聞くようになった米国におけるAIを理由としたレイオフのニュース。2026年に入ってから常態化したように思えるが、実態はどうか。2026年8月26日から27日にかけて行われた「ガートナー デジタル・ワークプレース サミット 2026」で来日したアナリストに聞いた。
米国労働市場で起きている「AIレイオフ」の真実
従業員にAIを使ってもらい、ビジネス成果の増大を実現してほしい……リーダーへのプレッシャーは高まるばかりだ。ガートナーのハイプサイクルによれば、わずか1年でAIエージェントが黎明期から「過度な期待」にあたるピーク期に到達している。一方、生成AIは幻滅期、従来型のAIは安定期に入った。つまり、AIはビジネスにおいて当たり前の存在となったようだ。
ガートナーでアナリストを務めるトリ・ポールマン氏は、リーダーシップの未来は「AI 拡張型」になるという同社の見解を紹介してくれた。人間の判断力とAIの拡張力を組み合わせることで、成果の最大化を目指す。このAI拡張型という理想はハッキリしているものの、実現に向けて“人材不足”という壁が立ちはだかる。
ポールマン氏は、人材不足への対策においてリーダーが注視するべき動向として、「AIエージェント」「レイオフ」「世界の労働力市場」の3つを挙げた。
まず、AIエージェントについては、導入スピードに着目してほしい。2026年に入り、確率論的なLLMと決定論的なソフトウェアの間にギャップが存在することが見えてきた。これを埋めるためのテクノロジーが定着するまでには時間がかかる。ガートナーの予測によれば、AIエージェントによって実行されるIT業務の割合は、ゆっくりと増加していく。2026年現在、CIOを対象とした調査結果ではその割合は3%に過ぎないが、2030年までに25%に達する見通しである。そのため、その準備においては焦る必要はなさそうだ。
2つ目は、AIに起因するレイオフである。AmazonやMicrosoftのようなハイパースケーラーが、AIデータセンターへの設備投資の資金確保を理由としたレイオフを実施するというニュースを聞く機会が増えてきた。しかし、AIが生産性向上に寄与した結果、レイオフに至ったと言えるだろうか。前述の通り、AIエージェントの普及は想定よりも遅いペースで進行しているならば、矛盾するように聞こえる。実際、ガートナーが140万件の解雇理由を分析してみると、AI による生産性向上に起因する解雇は1%未満とわかった。
出典:Gartner(2026年8月)
米国の労働市場の理解に役立つと、ポールマン氏が紹介してくれた考え方が、企業の労働力への投資は、「Defend(守る)」「Extend(拡げる)」「Upend(ひっくり返す)」に整理できるというものだ。この3つの中では、ほとんどの企業が「Defend(守る)」が当てはまる。実は、3つの中で成果を得ることが最も難しい領域が「Defend(守る)」だ。仮に1人が今よりも15%の生産性向上につながるスキルを身につけたとしても、全員が身につけなければビジネスインパクトは小さい。そして、これは組織規模に比例して時間が必要となり、難易度が高くなっていく。
2つ目の「Extend(拡げる)」は、投資資金の調達手法に関係している。ある事業を成長させたい場合、投資のために資金調達が必要となる。このときの選択肢は、「外部か社内か」大きく2つある。大抵の場合は、うまくいっていない事業に使われていた資金を集めて充当する。その際、一部の人材は別の部署へ異動できるかもしれない。しかし、全員の配置転換は難しいのが現実だ。異動できない場合は、雇用調整の対象になってしまう。つまり、ハイパースケーラーによる、AIデータセンター建設のための資金確保を目的とした人員整理は、「Extend(拡げる)」に分類できる。
とはいえ、AIデータセンターへの設備投資を理由とするレイオフは、ハイパースケーラーだけの専売特許ではないとポールマン氏は指摘する。たとえば、Allbirdsという日本でも知る人ぞ知るスニーカーのブランドがある。同社の経営陣は事業不振を経て、まったく異なるAIビジネスに進出するという判断を下した。このとき、既存のアパレルビジネスにおける人員を配置転換で維持することはできない。これが「Upend(ひっくり返す)」のわかりやすい例だ。
「3つの分類は、ビジネスの方向性を理解する上で役に立つが、どれか1つだけを選ばなくてはならないというものではない」とポールマン氏。たとえば、Googleの親会社Alphabetは、Waymoのサービス提供で、本業とは異なる事業の立ち上げを進めている。これは「Upend(ひっくり返す)」の例と考えることができる一方、GoogleではAI活用で従業員全員の生産性を高めようとする「Defend(守る)」の取り組みも進めている状況だ。
ただし、あれもこれもは選べない。今後、WaymoがタクシーやUberのドライバーの仕事を奪う可能性は残る。だからといって、UberのドライバーたちがAIの専門的な教育を受け、Waymoでエンジニアとして働くようになるか。その可能性はゼロではないが、かなり低い。何より、「Upend(ひっくり返す)」はリターンが大きい代わりにリスクも大きい。この戦略を選ぶ企業は、ごくわずかだろう。ほとんどの場合、リターンが小さいとわかっていても「Defend(守る)」戦略を選ぶ。いずれにせよ、AIは「仕事のあり方」を変える。労働というものが、今大きく変化しようとしている。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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