AIでなければ、経験の浅い人たちの仕事を奪うのは誰か?
3つ目、「世界の労働力市場」の現状で知っておきたいトレンドが、2030年までの労働力がすべての国において横ばいであることだ。つまり、採用を増やしたくても増やせない、深刻な状況にある。
ガートナーは、2029年を目処にAIにとって代わられた労働者の30%は、以前よりも高い報酬で再雇用されると予測。若く、経験の浅い人たちの仕事を奪うのはAIではなく、経験豊富なエキスパートだとする。
AIを業務利用するとき、エキスパートたちが目をつけるのは「low-hanging fruit」と呼ばれる、努力しなくとも簡単に成果が出せる分野だ。だからこそ、これから社会に出ようとする世代、社会人としての経験がまだ十分でない世代は、キャリア構築に行き詰まってしまう。残念ながら、既に同様の現象は、IT部門に近しいソフトウェア開発の分野で起きている。ポールマン氏は、成熟した分野であること、周囲との頻繁なコミュニケーションを必要としない独特のカルチャーが否定されるようになったこと、開発バックログをできるだけ多く消化したいリーダーたちの思惑と合致したことなどが影響したと分析している。
また、AIに仕事を奪われる前に、行動しようとする人たちも現れている。会計士が配管工へ転身する例、高校生が大学に入学する代わりに、電気工事技師のような「トレード(熟練技能職)」の道を志す例など、新しい動きが見られるようになってきた。さらに、ハイパースケーラーが哲学者を募集するという、興味深い動きも見受けられる。AIが質の高い回答を出すためには、良い質問をする人から学ばなくてはならない。AIに倫理的な正しさを教えることも必要だ。それを担えるのは哲学者だとして、「コンテキストエンジニアリング」と呼ばれる領域への採用例が出てきたという。
若い世代にとっては厳しい時代だが、AIを活用できる経験豊富な人たちにとってはチャンスが到来する。経営層が目を向けるべきは、向こう3年間に必要になる新しいスキル獲得への投資だ。その準備ができている企業は、まだ少ない。
将来の人材パイプラインを充実させる鍵を握るのは、教育である。特に就労前の世代、まだ教育を受けている世代へのアプローチが重要だとして、ポールマン氏は「仕事自体に大きな変革が起きないにしても、教育には大きな変革がもたらされる。教育そのものが変わることになるのではないか」と語った。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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