JTの医薬事業を継承した新生SHIONOGI、新薬開発期間の大幅短縮を実現した「AI高速創薬モデル」とは?
「SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2026」レポート#01
塩野義製薬では3月19日にオンラインイベント「SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2026」を開催した。4回目となる今回は、テーマに「データとともに進化する、社会の ”日常”」を据え、社員の講演では責任あるデータ活用の社会実装の実例が紹介されていた。この記事では「新生SHIONOGI創薬研究におけるデジタル活用(ケモインフォマティクス)」と題した講演内容を紹介する。
シミュレーション技術とインフォマティクス技術の2つに注力
塩野義製薬のビジネスにおける強みの1つに、低分子創薬がある。この分野は、低分子化合物をデザインして創るメディシナルケミストリーチームと、その化合物を評価する薬理のチーム及び安全性&薬物動態のチームが一体的に、一連のサイクルを進めることが重要である。同社は、一連のサイクルを3つのチームが連携して行う体制を整備している。塩野義製薬がこれまで注力してきたのが、感染症領域における低分子創薬だ。たとえば、ウイルス疾患の領域では、HIVの研究から端を発した抗HIV薬、抗インフルエンザ薬、抗COVID-19薬の開発へと展開してきた。
最近では、この自社創薬力をさらに強化するため、2025年12月に日本たばこ産業(JT)の医薬事業承継手続きを完了したばかりだ。最初に登壇した淺木敏之氏(塩野義製薬 創薬研究本部本部長)は、「M&Aでの強化ポイントは2つある」とし、低分子創薬力の強化、そして研究基盤の強化を挙げ、「この統合で、グローバルNo.1の低分子創薬基盤の確立を目指していきたいと考えている」と語った。
その旧JTが2023年4月に立ち上げたi2i-Labo時代から、AI創薬に取り組んできた畑貴広氏(塩野義製薬 医薬総合研究所i2i-Labo所長)は、所属ラボの「i2i」は「innovation to implementation」の略で、AIのような革新的技術を創薬実装することにより、創薬の初期ステージにおいて高品質なシード/リード化合物を創出することをミッションとしていると説明した。AI創薬の実現には、ドライ研究(計算に基づく研究)とウェット研究(実験に基づく研究)の緊密な連携が不可欠であり、i2i-Laboにおいては、ドライ研究を担当する「AI・計算科学」チームとウェット研究を担当する「化学」、「生物」チームが緊密に連携することにより、化合物のデザイン(Design)、合成(Make)、試験(Test)、解析(Analyze)という一連のDMTAサイクルを一つの研究所でシームレスに実施している。
AI関連技術のカバー範囲は広いが、畑氏によれば、創薬の初期ステージにおいて化合物創出に使う技術は大きく2つある。1つはシミュレーション技術で、化合物や標的分子をモデル化し、物理学的な理論に基づいてコンピュータ上で結合実験などを行い、結合活性などを予測するものになる。そしてもう1つは、インフォマティクス技術で、化合物や標的分子の情報をベクトル情報に変換し、情報科学的な理論に基づいて関連性を分析し、結合活性、物性、動態パラメータなどを予測するものである。狭義には、インフォマティクス技術がAI技術と呼ばれるが、昨今では、インフォマティクス技術を取り入れたシミュレーション技術、シミュレーション技術を取り入れたインフォマティクス技術が登場していることから、同所の研究ではこれら全体を「AI創薬技術」としている。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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