「SREは開発者」パナソニックコネクトは仮想組織によるハイブリッドSRE 製造業にフィットする運用へ
「PagerDuty on Tour Tokyo 2026」レポート
2026年4月15日から16日にかけて開催された「PagerDuty on Tour Tokyo 2026」は、次世代の“システム運用のあり方”を議論する場として、さまざまな企業事例が紹介された。その中でも「パナソニックコネクトのSRE組織モデルとPagerDuty運用術」と題した講演はビッグテックとは異なる、国内大手企業ならではの障害対応へのアプローチを共有するものであった。
SaaSプロダクト運用のために「SRE組織」を立ち上げ
パナソニックコネクトは、パナソニックグループ傘下でBtoB向けビジネスを展開している。多くの人たちにとってパナソニックは、家電製品に代表されるハードウェアの会社というイメージだが、同社の顧客はコンシューマーではない。事業は大きく2つに分かれ、ハードウェア事業では継続的に収益の見込める領域に集中し、ソフトウェア事業では持続的な成長につながる領域へと投資するという戦略を採っている。ソフトウェア事業では、特にリカーリングビジネスと呼ばれる分野、具体的にはSaaSプロダクトを開発・展開することを戦略の中核に据えている。
このSaaSプロダクトを展開する組織は「Technology Product Line(TPL)」と呼ばれ、SaaSプロダクトの事業開発を行う「SaaSビジネスユニット」、コア技術の開発とプロダクトへの展開を行う「技術研究開発本部」、クラウド事業基盤の構築と運用を行う「クラウドエンジニアリングセンター」の3つで構成されている。そして、イベントに登壇した野原豊氏はクラウドエンジニアリングセンターでSRE(Site Reliability Engineering)組織のリーダーを務める人物だ。
TPL組織では、どのようなプロダクトを開発しているのか。野原氏は、パナソニックコネクトのプロダクト戦略の中核が「サプライチェーンマネジメント(SCM)」にあると説明する。同社が2021年に買収した米Blue Yonderは、SCMの中でもサプライチェーン計画(SCP)を強みとしていた。これに対して、パナソニックコネクトではSCMの中でも実行領域にフォーカスしている。製造現場では工場内のソリューション、物流では倉庫内のソリューション、小売りでは店舗内のソリューションと、それぞれの現場で稼働するソリューションの提供でBlue Yonderの強みを補完し、顧客により高い価値を提供しようと試みてきた。
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さまざまなSaaSプロダクトの中でも代表的なものに、ロボット制御プラットフォーム「Robo Sync」がある。これはロボット導入を容易にするためのソリューションとして開発されたものだ。一般的に専門特化型ロボットの導入コストは高額になりやすい。たとえば、物流倉庫にシール貼りロボットやピッキングアームを1台導入するとき、通常であれば数千万円の導入コストが発生してしまう。そこでパナソニックコネクトでは、比較的安価な汎用型ロボットに制御プログラムを実装することで、導入のハードルを下げている。Robo Syncは、クラウド上で顧客独自のロボット制御プログラムを管理し、現場のエッジコンピューターにプログラムをダウンロードし、エッジ側でロボットを動かす仕組みだ。そして、野原氏がリードするSRE組織では、Robo Syncのようなクラウドアプリケーションを運用する。
3つの特徴をもつ、パナソニックコネクトならではのSRE組織
近年、SRE組織は一部の先鋭的なテックスタートアップだけでなく、大手企業でも採用が進んでいる。パナソニックコネクトでも2024年にSRE組織を立ち上げ、運営してきた。野原氏は、同社のSRE組織の特徴として「ソフトウェア開発による運用」「グローバルな運用体制」「最適化されたプロセスとQMS」の3つを挙げる。
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ソフトウェア開発による運用とは、開発者がSREエンジニアの業務を担っていることを指す。一般的なSREの考え方「開発と運用の一体化による品質向上」を一歩進め、ソフトウェア開発による運用自動化の実現をSRE組織の中核的ミッションとしている。パナソニックコネクトのクラウドエンジニアリングセンターの母体はR&D部門から派生した組織であり、開発者が多い。そのため、SREの役割を開発者が担う文化が自然に根付いている。
また、パナソニックコネクトでは、ベトナム、中国、インドに拠点を設けており、各拠点の人材がプロダクト開発や基盤構築において活躍しているという。その運用方式として、“水平運用”が採用されている。これは一部の作業だけを海外拠点に委託するのではなく、各チームにベトナム、中国、インドのメンバーが所属し、そのメンバーもSREエンジニアとして運用に参加するというものだ。これが2つ目の特徴である。
さらに最適化されたプロセスとQMSとは、アジャイル開発と伝統的な品質管理(QMS:Quality Management System)におけるカルチャーが異なることを踏まえた最適化を意味する。前述の通り、パナソニックが戦略的に注力するSaaSプロダクト開発では、2週間おきにアップデートをリリースする。その反面、製造物責任を強く意識する製造業では、商品をリリースする前には時間をかけて徹底的に品質チェックを行うことが当だ。同じエンジニアリングの仕事でも不具合に関する考え方がまったく異なり、カルチャーギャップを是正しなくてはならない。そのため、SRE組織を立ち上げるにあたって従来型QMSを刷新した、新しいQMSの整備を進めている。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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