外部にシステムの開発や運用を発注する際、基本的には最初に契約書を交わすものの、あとから当初は予定していなかった要望が増えたり、追加作業が発生したりするケースは珍しくありません。また、正式な契約書を改めて交わすことなく追加作業が行われることも多いでしょう。今回は、そうした際のすれ違いから発生した、追加分の費用の支払いを巡る裁判を取り上げます。契約書がなくとも、それに代わる書類や証拠があれば支払いは認められるのでしょうか。
ITの世界で発生しがちな「正式な契約書がない」システム開発作業
読者の皆さんは、ご自分が携わったシステム開発や運用(発注者側であれ、受注者側であれ)が、どのような契約書類によって実施されているか確認したことはあるでしょうか。
民法の定める典型契約に忠実に作成された請負契約書、準委任契約書、個々の契約の事情に応じて独自に定められた非典型の契約書、あるいは契約書という形式をとっていなくとも、発注者と受注者の役割や債権・債務、期間や金額などが記され、実質的に契約書に代わるものなど、書類の形式は様々かもしれません。
民法522条2項を見ると「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」との規程があり、実は契約には必ずしも書面が必須というわけではなく、場合によっては口頭でも契約が成立したとみなされる場合もあります。
ただ、ことシステムの開発や運用、各種ITサービスに関する契約の場合、その債務の内容(発注者と受注者の役割分担や、システムが具備すべき機能・性能、サービスの内容など)が複雑かつ抽象的でもあるので、これをたとえば口頭のやりとりのみで合意すること、あるいは合意したことを証明するのは、事実上困難です。
では、正式な契約書がない場合に、どのような文書であれば「契約があった」あるいは「契約の内容について合意した」と認められるのでしょうか。実際、システム開発や運用、その他サービスによっては、正式な契約書を取り交わさず、簡単な発注書や覚書、依頼文書などで仕事をするケースもあります。そして、なかには受注者側が約束した仕事をちゃんとしたかどうか、もしくは受注者の仕事は契約に基づくものであったかどうか、しばしば問題になることがあります。
今回は、そんな問題が実際に起こった事件を取り上げます。正式な契約書を取り交わさずに行われたシステムの追加開発について、受注者側が「契約の下で実施された」と主張するためにはどのような条件を満たしている必要があるのか。反対に、発注者側からすると正式に頼んでいない仕事が、「実は契約していた」とされ予想外の費用請求を受けてしまわないために、留意すべきこととは何か。少し考えてみましょう。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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