2026年7月のカード決済システム大規模障害──当時の関係各社の対応から学ぶ、現代システムの落とし穴
「自社だけで完結できないインシデント対応」が、今後さらに増えていく……
本連載コーナーでは、ITシステム運用に携わるうえで切っても切り離せない「インシデント対応」の世界に焦点を当て、世の中で起こっている様々な事象や、最新のトレンドを紐解く。そこから何が学べるのか、あるいは他社の事象を教訓として活かし、どのような対策を講じるべきか……。今回は、2026年7月に発生し、多くの人々に影響を及ぼしたクレジットカード決済サービス(システム)の大規模障害を取り上げる。
カード決済サービスで大規模障害が発生、しかし各社「システムに異常なし」の説明……
2026年7月16日、あるクレジットカード決済サービスにおいて大規模障害が発生し、多くの利用者がカードが使えなくなってしまう不便を経験した。
この手のシステム障害は、定期的に起こる問題ではある。しかし、今回のケースでは同時に、興味深い事象が確認された。障害発生後に各社が発信した情報の限りでは、「自社システムには異常は確認されていない」「自社設備に問題はない」といった説明が目立ったのだ。
利用者を含めた第三者の視点からすれば、「関連企業はどこも悪くないと言っているのに、なぜ障害が起こるのか」という疑問が生じるだろう。直感的には、各社の責任逃れのように聞こえるかもしれない。
結論を先取りすれば、この問題は、技術が高度化するにつれ複数の組織が連携してサービスを提供せざるを得なくなった、現代の情報システムが抱える構造的な問題が顕在化した事例だといえる。
近年の情報システムおよびシステム障害は、単一の企業によるオペレーションだけで完結するものではなくなっている。クラウドサービス、ネットワーク事業者、決済代行会社、国際ブランド、カード会社など、多数の組織が相互接続され、その上で一つのサービスが成立している。そのため、個々の企業は正常に稼働していても、組織間の接続点やデータの受け渡しに問題が生じれば、各社のオペレーションに問題がなかろうと全体に影響を及ぼすサービス障害を招いてしまうのである。
各企業は「自社設備には異常はない」と説明しており、それは必ずしも誤った説明ではない。一方で、各社に落ち度がなかろうと実際に障害は発生しているのであり、利用者からすれば余計に「では、なぜ決済できないのか」という不信が募る。こうして、サービス提供者側の説明と利用者の期待との間に大きなギャップが生まれるというわけだ。
今回のような障害では、単一の組織内におけるインシデント対応とは「別種の問題」が発生し得る。その別種の問題を論じるうえでの問題を洗っていこう。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
野村 浩司(ノムラ コウジ)
株式会社インシデントテック 代表取締役
株式会社NTTデータ 経営戦略室事業戦略担当 シニアエキスパート
グロービス経営大学院 MBA(経営学修士) 修了金融システムの開発・保守・運用と改善を15年担当し、10年にわたり約2000件の障害事例を分析。システム障害...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
-
舟津 昌平(フナツ ショウヘイ)
経営学者
東京大学大学院経済学研究科講師
京都大学大学院修了、博士(経済学)京都大学法学部卒業、京都大学大学院経営管理教育部修了、専門職修士(経営学)。2019年、京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。京都産業大学経営学部准教授などを経て、2023年10月より現職。専門分野...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
-
松浦 修治(マツウラ シュウジ)
株式会社ハートビーツ サービスマネージャ/アライアンスマネージャ
JISTA(一般社団法人日本ITストラテジスト協会)理事グロービス経営大学院 MBA(経営学修士)修了。筑波大学第2学群日本語日本文化学類卒業。株式会社リクルートにて、人材事業のプロジェクトマネジメント、ITサービスマネジメントに16年従事...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
