2026年7月のカード決済システム大規模障害──当時の関係各社の対応から学ぶ、現代システムの落とし穴
「自社だけで完結できないインシデント対応」が、今後さらに増えていく……
責任者や統括機能が「存在しない」システム分野がある
第一に、責任の所在が分散しているという問題が挙げられる。先述のとおり、決済サービスとは多数の事業者が役割を分担することで成立している。カード会社、決済代行事業者、ネットワーク事業者、クラウド基盤……。それぞれが自らの担当範囲を持ち、その範囲内では正常に稼働するよう、各事業者は自社の役割を全うする。しかし、サービス全体の話となると、組織間の境界などで障害が発生する場合がある。
システム障害が発生しても自社に落ち度がなければ、「自社には問題がない」と説明せざるを得ない。一方、同時に「でもサービスとしては障害が起こっている」という事実が成立してしまう。また、他社も関係するシステムであるがゆえ、問題の所在がある程度判明しても、自社からそれを発信できないこともある。「(取引先である)他社の問題です」と、当事者でない企業が発信できるわけがないからだ。
第二に、システム全体を統括する“主体”が存在しないという問題がある。単一企業で成立するシステムであれば、社内で障害対策本部なりを立ち上げ、責任者を置くことでインシデント対応の意思決定を行える。しかし、複数の企業にまたがるシステムの場合、そのような統括者を置くことは容易ではなく、責任者が存在しないケースも多い。それぞれ独立した企業であり、契約関係も複雑であるがゆえに、全体を指揮できる組織や部門が存在しないことすらある。
その結果、「サービスを構成するシステムの全体像を把握している人がいない」という状況が発生し、結果としてシステム障害における意思決定を行うことが難しくなる。
各社ともに自社のログは分析するが、他社のシステム状況までは覗けない。原因が自社の外部にあると考えても、それを断定することはできないし、先ほど述べたように公表することも難しい。このような状態では、単独で全体を把握することは難しく、障害の原因について説明できない。
また、この種の大規模障害は頻繁に起こるものではない。数年に一度しか発生しない事象に対して、常設の統括組織や専任体制を維持することは、経営上の合理性から考えても妥当ではない。実際、カードの不正利用などといった頻繁に発生する問題については、業界単位で情報共有の仕組みが整備されている。一方、大規模障害への共同対応については、その必要性が認識されながらも十分な投資が行われていない。これは怠慢というより、発生頻度と投資効果を考えた結果ともいえる。
以上に挙げた2つの問題、「責任の分散」と「統括機能の不在」によって、今回のようなシステム障害に誰も対応できないという事態が生じる。これらは難しい問題ではあるが、だからといって何もできないわけではない。次頁で、考え得る対策を3つ挙げよう。
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野村 浩司(ノムラ コウジ)
株式会社インシデントテック 代表取締役
株式会社NTTデータ 経営戦略室事業戦略担当 シニアエキスパート
グロービス経営大学院 MBA(経営学修士) 修了金融システムの開発・保守・運用と改善を15年担当し、10年にわたり約2000件の障害事例を分析。システム障害...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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舟津 昌平(フナツ ショウヘイ)
経営学者
東京大学大学院経済学研究科講師
京都大学大学院修了、博士(経済学)京都大学法学部卒業、京都大学大学院経営管理教育部修了、専門職修士(経営学)。2019年、京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。京都産業大学経営学部准教授などを経て、2023年10月より現職。専門分野...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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松浦 修治(マツウラ シュウジ)
株式会社ハートビーツ サービスマネージャ/アライアンスマネージャ
JISTA(一般社団法人日本ITストラテジスト協会)理事グロービス経営大学院 MBA(経営学修士)修了。筑波大学第2学群日本語日本文化学類卒業。株式会社リクルートにて、人材事業のプロジェクトマネジメント、ITサービスマネジメントに16年従事...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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