2026年7月のカード決済システム大規模障害──当時の関係各社の対応から学ぶ、現代システムの落とし穴
「自社だけで完結できないインシデント対応」が、今後さらに増えていく……
今日から実践できる3つの対策、完璧な説明だけが正解ではない
第一に、平時における意思決定の可能性である。他組織にまたがる障害が発生した場合、「どの段階で」「誰が」「何を発信するのか」を社内で平時にこそ議論しておく必要がある。
重要なのは、詳細なマニュアルを作ることではない。自社に原因がなくても利用者が困る状況に陥った際、どのような姿勢で情報発信を行うのか。利用者ファーストで復旧したい場合に、各社は何をすればよいのか。その基本方針について合意し、議事録として残しておくだけでも初動が大きく変わり得る。是非この機会に、少なくとも社内で、できれば関連する他組織とも議論してみてほしい。
第二に、情報発信の迅速化である。危機対応の世界では、「原因が分かってから説明する」という考え方が根強い。しかし、複数の組織にまたがる障害の場合、原因究明に時間がかかる。その間、利用者は何も分からない状態にしばらく置かれることになる。
このとき必要なのは、原因を確定することではなく、状況を共有することだ。「現在調査中だ」「自社設備には異常を確認していない」「他社と連携して状況を確認している」といった情報だけでも、社会全体の原因切り分けの重要な手掛かりとなる。説明すべきは、確定した事実だけではない。いま何を確認しているのかというプロセスもまた、説明の対象なのである。そういった透明性を担保し、逐一コミュニケーションを図ることには十分な効果がある。
そして第三に、「できないこと」を説明する姿勢である。たとえば、委託先のさらに先で障害が発生しているような場合、自社で情報を把握することには限界がある。そのような状況下で無理に断定的な説明を行えば、後に修正を余儀なくされる可能性がある。
だからこそ、「現時点では確認できていない」「この時点では回答できない」ということも含めて説明することが重要となる。説明責任とは、すべてを知っていることではなく、自分たちが何を知り、何をまだ知らないのかを明らかにすることでもあるからだ。知らないから何も言わないのではなく、知らないということを表明するのもまた、先述の透明性にあたる。
以上が、さしあたり考えうる3つの対策である。中長期的には、業界全体での情報共有ルールや共同ガイドラインの整備、定期的なシミュレーション訓練なども望まれるが、それらが短期間で実現するとは考えにくい。頻度の低いリスクに対する投資は、どの業界でも後回しになりやすいからだ。
とはいえ、クラウド化や外部委託、API連携が進むほど、一社だけでサービスを完結できるケースは少なくなり、それによって複数の組織にまたがるシステム障害は、今後さらに増えていくと考えられる。そして、完全な統括体制が存在しない現実は、当面変わることはないだろう。
だからこそ、「誰が悪いか」を早く決めることではなく、「利用者がいま何に困っているのか」を起点に情報発信を設計し、複数の組織にまたがるシステムにおける対応の精度を上げることが重要だ。
繰り返しになるが、複数組織にまたがる障害においては、自社だけで解決できることは限られている。しかし、迅速かつ透明性のある情報発信と、平時からの意思決定には、各企業が今日からでも取り組める。それは小さな改善に見えるかもしれないが、統括者のいないシステムにおいて社会からの信頼を得る有用な手段は、そうした細やかな実践なのである。
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野村 浩司(ノムラ コウジ)
株式会社インシデントテック 代表取締役
株式会社NTTデータ 経営戦略室事業戦略担当 シニアエキスパート
グロービス経営大学院 MBA(経営学修士) 修了金融システムの開発・保守・運用と改善を15年担当し、10年にわたり約2000件の障害事例を分析。システム障害...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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舟津 昌平(フナツ ショウヘイ)
経営学者
東京大学大学院経済学研究科講師
京都大学大学院修了、博士(経済学)京都大学法学部卒業、京都大学大学院経営管理教育部修了、専門職修士(経営学)。2019年、京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。京都産業大学経営学部准教授などを経て、2023年10月より現職。専門分野...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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松浦 修治(マツウラ シュウジ)
株式会社ハートビーツ サービスマネージャ/アライアンスマネージャ
JISTA(一般社団法人日本ITストラテジスト協会)理事グロービス経営大学院 MBA(経営学修士)修了。筑波大学第2学群日本語日本文化学類卒業。株式会社リクルートにて、人材事業のプロジェクトマネジメント、ITサービスマネジメントに16年従事...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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