JR東海がNRIと挑む“前例なき上流工程変革” リニア構想を支えるAI活用と変化に適応できる組織設計
長期プロジェクトを成功に導く「AI要件定義」の鉄則とは
2026年6月に開催された「AI要件定義サミット 2026」では、「リニア中央新幹線の構想をAI(人工知能)でどう活かすか? 事業者と変革パートナー、二つの視点から語る上流工程改革?」をテーマに、野村総合研究所(以下、NRI)と東海旅客鉄道(以下、JR東海)が登壇し、次世代の鉄道インフラを支える業務プロセスのあり方が議論された。日本の交通史上かつてないスケールで進む「リニア中央新幹線プロジェクト」において、過去に参照すべき定型のモデルが存在しない構想段階から、両社はいかにしてAI活用と上流工程改革を進めているのか。プロジェクトをけん引する事業者と変革パートナーのリーダー2名が詳細を語った。
「ダイナミック・ケイパビリティ」に必要な3要素
NRIの高橋寛和氏はセッションの冒頭、現代企業が直面する経営環境のパラダイムシフトについて言及した。1990年代の静的均衡の崩壊から始まり、グローバル化やデジタル化を経て、現在では地政学リスクの常態化やAIの加速が企業に大きな変革を迫っている。こうした変化の中で、企業の寿命は短命化しており、技術開発やイノベーションの波が従来の競争優位性を失わせている現状があるとした。
国内市場では言わずもがな、労働力不足の深刻化は避けて通れない喫緊の課題だ。ある試算によれば、2040年には2025年比で約17倍もの労働供給不足に陥ると予測されており、高橋氏は「これまでのように人を採用して業務を回していくといった“人前提で動かす業務の世界観”が成り立たなくなっていく」と指摘する。これに加えて、生成AIなどの技術は加速度的な進展を見せており、海外のテック企業ではすでに数千人規模のレイオフをともなう業務代替の波が広がっていることにも触れた。
こうした激しい環境変化において企業が生き残るためには、戦略の変更に合わせて業務プロセスやITも動的に変革可能でなければならない。この変革を支える組織能力として、高橋氏は経営戦略論から発展した「ダイナミック・ケイパビリティ」という概念を紹介した。これは、変化する環境の中で機会を“感知”し、その感知した機会を“捕捉”して迅速な意思決定/資源配分/ビジネスモデルの設計を行い、組織や業務を“変容”させるという3つの要素からなる動的な能力だ。
既存の環境下で効率を最大化する活動は「オーディナリー・ケイパビリティ」と呼ばれ、これは従来の改善活動に相当する。しかし、これだけでは過去の成功体験が足かせとなり、大きな変革に取り組みにくくなるリスクをはらんでいる。高橋氏は「今日の最適化を図っていくのがオーディナリー・ケイパビリティだとすれば、明日の最適化を創造するのがダイナミック・ケイパビリティだ」とし、企業は両者を相互に作用させることで、持続的な競争優位を維持できると強調した。
リニア新幹線を支える「業務標準化とIT化」
続いて、JR東海でリニア中央新幹線開発を担当する富永誉也氏が登壇し、具体的な実践事例を紹介した。JR東海は、単体売上高の多くを占める「新幹線事業」「在来線事業」「関連事業」の3つの柱に加えて、「超電導リニアによる中央新幹線計画」と「高速鉄道システムの海外展開」という2つの大きなプロジェクトを推進している。リニア中央新幹線は、東京・名古屋間を最速40分で結び、三大都市圏をひとつの巨大都市圏にする「スーパーメガリージョン構想」の実現を目指すものだ。
この巨大インフラを安全かつ安定的に運営するため、同社では機械/土木/電気を軸とする5つの専門分野(系統)ごとに設備管理業務を実施してきた。しかし、設備の多くは山間地域に存在し、将来的な労働人口の減少を見据えると、今のままの人員体制で労働力を確保し続けることは困難になる。そこで、富永氏は「将来の労働人口の減少に備えるため、機械/土木/電気の3つの系統を部分的に統合し、業務の標準化とIT化を推進していく」と述べ、サイロ化された部分最適からの脱却を図る構想を明かした。
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