JR東海がNRIと挑む“前例なき上流工程変革” リニア構想を支えるAI活用と変化に適応できる組織設計
長期プロジェクトを成功に導く「AI要件定義」の鉄則とは
鉄道現場のマインドをどう変えた? ルール標準化の手引
富永氏のチームが目指すのは、人を前提としない仕組みへとシフトする「ソフトウェアドリブン」な運営である。系統ごとに最適化された業務プロセスやシステムを見直し、データ共通化やユーザーインターフェースの統合を進めることで、一元的なデータ閲覧や横断的なダッシュボードの構築を目指している。これにより、従来は各系統の担当者が別々に現地へ赴いていた巡回検査なども、遠隔検査やAIを用いた画像診断で代替できるようになる。
将来的な運営体制として、コントロールセンターに配置された人員は、技術の適用や監督業務といった“人ならではの業務”に特化する方針を示す。一方で、沿線における定常業務はAIやロボット、ドローンを活用して完結させる仕組みを構築し、徹底的なデジタル化を志向している。富永氏は「常に最新の技術やソフトウェアを取り込みながら、それに合わせて業務プロセスや組織、人の役割を変えていく」と説明し、この柔軟なアプローチが次世代の鉄道運営のカギになると位置づけた。
しかし、長年培われてきた系統ごとの専門性や運用ルールを統合することには、多くの困難がともなう。富永氏は、プロジェクトを進めるうえでの課題として「業務や組織運営の担保」「技術やシステムの実現性」「現場のマインドチェンジ」という3つの壁を挙げた。とりわけ、業務統合の構想に共感し、現場の意識を変えることは最も難しい課題だと述べる。
このマインドチェンジの課題に対し、JR東海では次世代を担うメンバーを各系統から集結させた横断的なチームを組成。このチームが各組織のハブとなり、現場との接触回数を増やしてプロジェクトの背景にある思いや意図を伝えることで、「やらなければならないという強制的な感情ではなく、『やってみたい』という欲求を引き出し、前向きな活動としてプロジェクトを進めていきたい」と富永氏は語る。
また、運用ルールの標準化や判断の分担に向けては、「作業難易度」と「判断難易度」の2軸で検査項目をレベル分けするアプローチを採用した。数値で定義できる完全定型な業務から統合に着手し、高度な専門性が求められる領域は引き続き系統の熟練者が担うという現実的な判断を下している。
技術の実現性については、技術への依存度と開発導入に必要な期間に応じて優先順位をつける戦略的な整理が行われている。開発期間が長く技術依存度が低い業務基盤やデータ基盤の整備はすぐに着手し、日々の進化が激しい領域はソフトウェアドリブンで検証を重ねる。反対に、技術依存度が高く開発期間が短いLLMなどの技術は、富永氏が「今から検証・開発すべきことと開業直前に開発すべきことを戦略的に切り分けて検討を進めている」と語るとおり、最新のものを組み込む柔軟な姿勢をとっている。
これらの効果や実現可能性を証明するため、同社は山梨実験線をリアルフィールドとして位置づけ、PoC(概念実証)を通じて実績を蓄積している。段階的に完全自動化を目指すうえで、作業主体の置き換えと責任主体の再設計という転換点を明確に意識しながら、人とAIが共創する体制の構築を進めているのだ。不透明な開業時期を見据えながら、今決めるべきことと開業直前までに決めるべきことを戦略的に切り分ける手法は、超長期プロジェクトにおける重要な知見となっている。
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