利用率ほぼ100%──LINEヤフーの「AI義務化」を推進したリーダーに宿る“ギャルマインド”の精神
#11:LINEヤフー AI CBU AI推進ディビジョン 越川滋代さん
全社員に生成AI利用を義務化し、利用率ほぼ100%──LINEヤフーは、データ基盤の整備と全社的な教育を軸に、AIを前提とした働き方にシフトしつつある。その変革をリードするのが、AI推進を担う越川滋代さんだ。原動力は、学生時代から揺るがない「ギャルマインド」。かつてギャルに憧れて上京した著者が、羨望の眼差しで話を聞いた。
なぜ“義務化”がうまくいったのか?「使える」という実感を育む
──LINEヤフーは全社員の生成AI利用を義務化し、検索やニュース、決済といった顧客サービスへのAI活用も加速させています。AIを事業や働き方にどう活かそうとしているのか、全社の戦略を教えてください。
AIを前提に、働き方も、ユーザーへの提供価値も、サービスそのものも再定義していく。それが私たちの戦略です。全社員が当たり前にAIを業務へ組み込み、AIがパートナーになっている。そんな姿を理想としています。
そのために今、重点を置いている一つが、データの整備です。モデルの性能がいくら向上しても、データそのものにノイズがあれば、欲しい回答は得られないし、ハルシネーションも抑えきれません。今のうちに整備しておかないと、余計な仕事が増えるのは目に見えています。
そこで「ノイズとは何か」突き詰めて定義するところから始めています。たとえば、更新が1年以上止まっているページ、タイトルに「ドラフト」と入ったまま放置された文書。こうした条件をルールとして決めておき、AIエージェントに該当ページを自動で抽出させるんです。抽出したら、そのページのオーナーに確認して、不要なら整理していく。ゆくゆくは、その確認まで自動化したいと思っています。
──AIが、消してはいけないデータまで消してしまう怖さはありませんか?
怖さはあります。だからこそ、AIに削除の最終判断を委ねる設計にはしません。AIが担うのは、更新が止まっている、ドラフトのまま残っている、オーナーが不明になっている、といった“整理候補”を見つけるところまでです。最終的には必ずデータのオーナーや責任者が確認し、削除・保管・移動を判断する。権限、承認フロー、ログ、復元可能性まで含めて設計しておけば、AIが勝手に大事なデータを消してしまう運用にはなりません。
一方で、「使っていないかもしれないけれど、消すのは怖い」というデータは必ずありますよね。そこは削除か、保存かの2択にしないほうがいい。普段のAIエージェントが参照する場所からは外しつつ、必要になれば取り出せるアーカイブ領域に置く。いわば“冷凍保存”です。日常の検索やAIの回答にはノイズとして混ざらないけれど、必要なときには戻せる。データ整理は、何でも捨てる話ではなく、AIが安心して使える情報の鮮度と置き場所を設計する話なんです。
そして、これから生み出すデータは、最初からAIが扱いやすい形にしておく必要があります。たとえばGoogle ドライブなら、タイトルやフォルダの階層をそろえる。Slackなら、やりとりを定型スタンプで分類する。そうやって整え方を決めたうえで、組織ごとにバラバラだったルールを、全社で標準化していくんです。データが膨れ上がって手に負えなくなる前に着手したいところ。地味ですが、データの整備は未来への投資です。
──利用率ほぼ100%に至るまでの試行錯誤を教えてください。
まず大きかったのは、ChatGPTが出てきたとき、役員陣が速攻で旗振り役の「生成AI統括本部」を立ち上げたことです。約30人のチームで、全社員約1万1000人に対し、いろんなやり方で生成AIの使い方を伝えていきました。
たとえば、教育コンテンツとして「Generative AI Boot Camp」を用意。「AIとは」といった入門から業務で使えるプロンプトの作り方まで、自分のペースで学べるものです。工夫したのは、マネージャーが自分のチームだけでなく、他のチームの受講状況まで見られるようにしたこと。自然と熱が入って、受講率は約90%まで上がりました。
他にも月に数回、生成AIを使い倒している社員に登壇してもらってランチセミナーを開いたりしました。当時は、思いついた施策を片っ端からやっていましたね。
──乗り気じゃない人には、どう働きかけていったのですか?
もともと「AIを使いたくない」という声は、社内で一度も聞いたことがありません。ただ苦労したのは、「自分の業務にAIは関係ない」と思い込んでいる人たちをどう自分事化するか。そこで打ち出したのが、生成AI活用の義務化です。調査、検索、資料作成、会議の議事録づくりなど、誰にでもある作業を対象に、効果的な使い方を示していきました。
義務化はパワーワードなので、それだけが独り歩きしたような報道もされましたが、社内ではむしろ「何に使えばいいかピンと来てなかったから、具体的に示してもらえてありがたい」と、ポジティブな感想が多かったですね。なかでも響いたのが、議事録の自動作成です。議事録係に任命されると、その会議って超つまんないわけですよ(笑)。発言する余裕はないし、書き漏らすまいと余計なプレッシャーもかかる。こういった、人間が行っていたストレスのかかる作業をAIがやってくれる、自分たちでもAIが簡単に取り入れられるというエクスペリエンスが、その後の社内のAI推進にもよい影響を与えていったのだと思います。
そうやって「使える」という実感が広がってきたら、今度は社員自身が知見を発信する番。そこで開催したのが、プロンプトコンテストやSkillコンテストです。これまで四半期に一度はそういったハッカソンを実施しているのですが、毎回かなりの数の応募が集まっています。「2時間かかっていた作業が5分で終わった」──そんな成果つきの事例を社内の「生成AIポータル」で横展開し、誰もが自分の業務に取り入れられるようにしています。
今では社内のSlackに、AIを使ったTipsが紹介されるチャンネルが、自然発生的に立ち上がっていて、旗振り役としては本当に嬉しい光景です。
この記事は参考になりましたか?
- 酒井真弓の『会いたい人』連載記事一覧
-
- 利用率ほぼ100%──LINEヤフーの「AI義務化」を推進したリーダーに宿る“ギャルマイン...
- 集中豪雨で損害車の管理が追い付かない……人力運用を経て「AI駆動開発」で専用システムをスピ...
- 消えゆく熟練の“暗黙知”に歯止め……ライオンが7B規模の「小型LLM」開発で知識継承の仕組...
- この記事の著者
-
酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
