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酒井真弓の『会いたい人』

集中豪雨で損害車の管理が追い付かない……人力運用を経て「AI駆動開発」で専用システムをスピード構築

#10:オークスモビリティ/デジタルバリューコンサルティング

 エンジニア不足や開発スピードの要求などを背景に、いまAI駆動開発が注目を集めている。要件定義から実装、テスト、運用に至るソフトウェア開発の全工程にAIを組み込む開発手法だ。事故や災害で全損したクルマの流通を手がけるオークスモビリティは、災害発生時の車両管理システムをAI駆動開発で構築し、約半年で運用開始に漕ぎつけた。大幅な時短とコストの圧縮、良いこと尽くめな一方で、“人間の休む時間”が減ったという。一体、どんな変化があったのか聞いてみた。

瞬く間にショッピングモール相当の土地を埋め尽くす惨状……

 近年、激甚化する豪雨や台風などの自然災害。その被害に遭って水没し、全損したクルマでも価値がゼロになるとは限らない。クルマのエンジンや部品を求めるバイヤーは国内外にいて、オークションにかければ再び息を吹き返す。そうした両者をつなぐ役割を担うのがオークスモビリティだ。

 そんな同社の存在意義が試されたのが、2025年夏に九州地方を襲った豪雨。被災地から運び込まれた水没車は、瞬く間に2,000台を超えた。ショッピングモールがまるごと1つ収まるほどの広大なヤードは被災車両で埋め尽くされたという。

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臨時ヤードは2,000台以上のクルマで埋め尽くされた(提供:オークスモビリティ株式会社)

 「正直、どのクルマがどこにあるのか、すぐに管理できなくなってしまいました」──当時、現地で対応にあたっていた業務企画部 部長の栗山大輔さんは、そう振り返る。平時であれば、運ばれるクルマは数台程度。どのクルマがどこにあるかは容易に管理できる。だが短期間に千台規模ともなれば、受け入れるだけで手一杯だ。しかも、売れたクルマを引き取りやすい場所へ移動させたり、同じようなサイズで寄せたりもするため、ヤードの状況は日々変わる。次第に、広大な敷地から特定の1台を探し出すだけでも、膨大な時間がかかるようになっていった。

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オークスモビリティ株式会社 業務企画本部 業務企画部 部長 栗山大輔さん

 そこで栗山さんは、クルマの場所を記録したマップを作ることを考えつく。真夏の炎天下、スマートフォンを片手にヤードを歩き回り、「右の手前から行きます」「一列奥に進みます」と声に出しながら動画撮影し、その記録をExcelに落とし込んでいった。撮影するだけで丸一日、まとめるのに丸一日。それでも日々クルマは移動するため、せっかく作ったマップもすぐに使えなくなってしまう……。

 水害が増え始める次の梅雨期、つまり2026年6月までに、この状況をなんとかしなければならない。新たに「災害時車両管理システム」を稼働させることは決まったものの、従来のウォーターフォール型の開発手法では、現状調査だけで1年はかかり、到底間に合わない。そこで思い切って、要件定義から開発まで全工程にAIを介在させる「AI駆動開発」に踏み切ったのだ。

人力なら1年かかるところを、わずか1週間で完了したAIの実力

 ではなぜ、そこまでAIに踏み切れたのか。その実力を、既に目の当たりにしていたからだという。

 2025年7月に着任した執行役員CIO 業務企画本部長の佐藤元紀さんは直後から、基幹システムの刷新に頭を悩ませていた。案件の受付から各種手続き、オークション出品、請求、支払いまでを担う事業の心臓部は、長年繰り返された改修と建て増しで修正の記録は数百件に上る。作ったメンバーは既におらず、聞くことすらできない。こうした話はオークスモビリティに限った話ではなく、基幹システムの常だろう。

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オークスモビリティ株式会社 執行役員CIO 業務企画本部長 佐藤元紀さん

 ベンダーに相談すると2年以上かかると言われたという。「せめて半分にできないか」──そう探るうちにたどり着いたのがAIだ。当時AIは、コーディングやテストの一部を効率化するものという見方が一般的だったが、佐藤さんがAIに任せてみたかったのは、その手前の要件定義だった。

 とりわけ難しいのが、既存システムの現状をつかむこと。そこで、パートナーのデジタルバリューコンサルティングと、ある実験を試みることに。Salesforce上の既存システムのソースコードから、AIに設計ドキュメントを復元させる、リバースエンジニアリングである。出てきたのは、単にコードを読める形に直したものではなかった。データの流れ、業務の流れ、その関連性まで、人手なら1年以上かかる作業を、AIは1週間でやってのけてしまったのだ。

 もちろん、AIが100点とは限らない。しかし、その整合性をすべて人力で検証する必要はない。AIを使って元のドキュメントと突き合わせ、食い違うところ、AIが「分からない」と返すところに目を向ければいい。「AIで開発できる」そう確信するには十分だった。

 とはいえ、いきなり基幹システム本体に挑むのは心配だ。そこでまずは、サブシステムにあたる災害時車両管理システムで、AI駆動開発を試すことにした。あの夏、炎天下でマップを更新し続けた栗山さんが、開発リーダーとなった。

次のページ
要件を定義する“前”に「作ってしまう」、逆転の発想

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この記事の著者

酒井 真弓(サカイ マユミ)

ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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