エンジニアに求められる役割はどう変わるのか?
AI駆動開発は、エンジニアの役割を変えていく。「作る人から、見極める人になっていく」と伊藤さんは言う。その出力が本当にいいのか、設計や将来性まで見据えて判断するには、エンジニアの技術的な土台が不可欠だ。エンジニアに求められる気質も変わる。
「顧客の要望を聞いて作る受け身から、専門家として提案する側へ。相手の立場で考える力、伝える力が、これまで以上にものを言います。AIをマネジメントすることができる人と、そうでない人。二極化は避けられないでしょう」(三森さん)
では、エンジニアは、これからどう生きていけばいいのか。「コードを書くこと自体は、AIと競う領域になる」と伊藤さんは言う。コードを書くことを突き詰めるなら、研究者になるしか道がないかもしれない。かつて、計算を職業とする人が大勢いたが、計算機の登場で多くが別の仕事へ移り、計算を極めたい人は数学者になった。それと同じだ、と。
「ただし、コードを書くなかで培った思考、論理的に条件を切り分け、細部まで詰めていく力は絶対に無駄にはなりません。別の分野にいけば、むしろ掛け算の価値になる。大事なのは、技術ありきで考えるのではなく、何がしたいかを起点に手段を選ぶこと。そして、やりきること。一つの手がダメでも、目的を果たすために別の手を探す。ユーザーの課題が解けたか、その先で何が変わったのかまで、責任を持って見届けることです」(伊藤さん)
(左から)デジタルバリューコンサルティング 代表取締役社長 三森輝久さん
同社 技術検証・調査本部長 兼 ディレクター 伊藤健太さん
三森さんは、「AI駆動開発は、日本のIT業界が長く抱えてきた問題に風穴を開けるかもしれない」と語る。そもそも、これほどシステム開発会社が多いのは、日本独特の現象だ。アメリカでは、エンジニアはプロジェクト単位で集まり、終われば解散する。日本では、一度雇った社員を簡単には手放せないため、プロジェクトごとに外注する形が定着した。だが、契約や仕様の管理が厳格になる分、契約外の要望には応じにくい。それが開発の長期化やコスト増を招き、IT化の遅れにつながってきたという。
遅れを取り戻そうと、ERPなどのパッケージ製品を導入する企業は多い。その際よく選ばれるのが、製品の標準仕様に自社の業務のほうを合わせる進め方、いわゆる「Fit to Standard」だ。だが、その過程で、日本企業がそれぞれに磨いてきた独自の業務が、どこにでもある平均的な業務へと均されてしまうことがある。もっとも、既存の業務には業務プロセスそのものを見直す(BPR)べきものも多く、Fit to Standardそのものを否定したいわけではない。問題は、本来は強みだった独自性まで、標準に合わせて切り捨ててしまうことだ。
「AI駆動開発によって、IT業界の形は崩れるかもしれません。でも、日本企業のIT化は、格段に進むはずです。自分たちの業務を一番よく分かっている当事者が、自ら作れるようになる。標準に合わせるために、独自性を切り捨てる必要はない。AI駆動開発は、日本企業がその強みを保ったまま、もっと強くなれるチャンスなのです」(三森さん)
取材後記:他人事とは思えなかった
ライターという職業は、エンジニアがそう言われるずっと前から、いずれAIに取って代わられると言われてきた。だから将来が不安で、厚生年金を受給するために法人成りして自分一人の会社まで作ってしまった。コードを書くことだけで生きていくのは、難しいかもしれない──筆者も我が事として聞いていた。
幼い頃、夢見た作家は、原稿用紙に万年筆で物語をつづっていたが、筆者はいま、鉛筆の1本も持っていない。AIも使う。あの頃の自分が見たら、びっくりするだろう。
けれど、書きたいことはある。AIに振り回され、AIに救われ、AIと格闘する人間の悲喜こもごも。それは、この時代に生きるライターだからこそ書けるテーマである。手段は変わっても、たとえ書かなくなったとしても、書く理由はなくならない。
エンジニアの皆さん、こちら側の世界へ、ようこそ。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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