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EnterpriseZine(エンタープライズジン)

EnterpriseZine編集部が最旬ITトピックの深層に迫る。ここでしか読めない、エンタープライズITの最新トピックをお届けします。

『EnterpriseZine Press』

2026年冬号(EnterpriseZine Press 2026 Winter)特集「AI時代こそ『攻めの経理・攻めのCFO』に転じる」

酒井真弓の『会いたい人』

集中豪雨で損害車の管理が追い付かない……人力運用を経て「AI駆動開発」で専用システムをスピード構築

#10:オークスモビリティ/デジタルバリューコンサルティング

要件を定義する“前”に「作ってしまう」、逆転の発想

 デジタルバリューコンサルティング 代表取締役社長の三森輝久さんは、「要件定義と設計の段階こそ、AIの使いどころ」と考えている。なぜなら、プロジェクトのつまずきは、この上流工程に起因するものが多いからだ。

 打ち合わせで要件を固めようにも、顧客のイメージはまだふわっとしていることもあり、完成してから「こんなはずじゃなかった」「これでは使えない」となりかねない。それならば、要件を決める前に、AIで作ってしまえばいい。

 「(AI駆動開発は)要件を言葉で固めてから作り出すのではありません。まずはプロトタイプとして、AIを使っていくつか形にして、触ってもらって、違ったらゼロから新しく作る。それを繰り返すことで、要件を固めていくんです。家は3回建ててようやく満足のいくものができると言いますよね。それと同じで、要件を決める前にいろんな家を建てて、しばらく住んでもらって、『この家がいい』となってから、本番を作り込んでいくイメージです」(三森さん)

 人間のエンジニアが同じことをすれば、時間もコストも到底見合わない。こんな無茶ができるのは、AIだからこそだ。

 2025年12月5日、プロジェクトキックオフ。まずは、災害時の車両管理業務について、両社で認識をすり合わせた。膨大なクルマをどう把握し、必要な一台をどう探し出すか。その業務を、デジタルバリューコンサルティング側がどれだけ深く理解できるかが出発点だった。「私が理解できないことは、AIも理解できない」と、同社 技術検証・調査本部長 兼 ディレクターの伊藤健太さんは言う。いかに解像度を上げられるかが、そのままAIのアウトプットの質に反映されるのだ。

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 すり合わせた認識をもとに、伊藤さんがたたき台のデモを用意した。それを見た栗山さんの中で、考えやアイデアが次々とあふれ出す。栗山さんは、画面の役割や見た目、遷移を書き込んだPowerPointの資料をまとめあげた。これをAIに読ませると、作りたいシステム像がぐっと鮮明になる。ここから意思決定は一気に速くなった。

 もっとも、栗山さんが作った資料をそのままAIに学習させたわけではない。一度AIに読ませて要約や特徴を出させ、伊藤さんが補正して要件としてまとめた。では、栗山さんが最初からAI-Readyな資料を作れば良かったのかというと、そうではないという。伊藤さんは、「むしろAIを意識して整える必要はない」という。

 「AIに気を遣って記法に引っ張られすぎると、表したいこと、伝えたいことがぼやけてしまいます。それより作り手の思いを存分に込めた一枚を、まずは書く。それをAIに読み取らせたほうが、要件はよく掴めます。まずは、何がしたいのか語り尽くすことです」(伊藤さん)

 そして、わずか6回の打ち合わせ、年末年始を挟み実質3週間でシステム全体のプロトタイプが出来上がった。既存の開発スタイルでは、仕様書の文章をもとに完成形を思い描くしかなく、実際に動く画面を見られるのはずっと後だ。それがもうこの段階で手元にある。フィードバックのループが一気に回り出した。

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 ただし、AIは万能ではない。「AIのマネジメントは人がする必要がある」と三森さん。的確な指示や舵取りといったプロジェクトの肝は、人間の仕事として必要だ。

超高速開発ゆえに、人間の意思決定がボトルネックに

 ここまでAI駆動開発は良いこと尽くしのように思えるが、デメリットはないのだろうか。「強いて言えば、AI駆動開発にしてから私は休みなしでした」と栗山さんは笑う。従来の開発なら、要望を伝えたあと開発側がそれを形にするまで、しばしの待ち時間があった。だがAI駆動開発では、要望を出せばすぐ「見てください」と返ってくる。開発が速すぎるがゆえに、これまでになくスピーディな意思決定が求められたという。

 ともすると、多くの部門が関わり、意思決定に時間がかかるようなケースでは、AI駆動開発の良さが生かせないのではないだろうか。少数精鋭チームで、現場をよく知るリーダーに権限移譲するほうが、速くいいものができるかもしれない。オークスモビリティの場合は、CIOの佐藤さんと現場をよく知るリーダーの栗山さんが、ほとんどその場で決めていったから、うまく回ったとも言える。

 意思決定をめぐっては、佐藤さんからこんな言葉も出た。「決める度胸を、責任者がなんとなく忘れてしまっているんですよね」。AI駆動開発では、次々に試作が上がってくる。そのたびに会議にかけ、全員が納得するのを待っていたら、せっかくのスピードが台無しだ。

 とはいえ、一人の責任者がすべて完璧に見極めて決めるのも無理がある。鍵は、パートナーとの信頼関係だ。三森さんと伊藤さんは、できること/できないこと、引き返せること/引き返せないことを、はっきり伝えてくれるという。一人で抱え込むのではなく、信頼できる相手の見立てを聞いたうえで、最後は自分の責任で決める。それが、佐藤さんの言う「度胸」だ。幸い、一度の失敗にかつてほどの重さはない。また作り直せばいいからだ。AI駆動開発がうまく回るかどうかは、この意思決定のありようにかかっているのではないだろうか。

次のページ
エンジニアに求められる役割はどう変わるのか?

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この記事の著者

酒井 真弓(サカイ マユミ)

ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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