フィジカルAI開発にも“民主化”を──AMDが産業用に発表したフィジカルAI開発環境、重んじる世界観
AMD Advancing AI 2026 現地レポート Vol.2【フィジカルAI編】
引き続き、半導体大手のAMDが米サンフランシスコにて2026年7月22日、23日の2日間にわたり開催したフラッグシップイベント「AMD Advancing AI 2026」での注目の発表内容をお届けする。本稿では、主にフィジカルAI分野でのアップデートにフォーカス。AIエージェントは、まるで人間のように自律的に仕事をこなす「AIワーカー/デジタルワーカー」などと呼ばれるが、フィジカルAIの世界では、これが物理的な身体をともなうことになる。そのため、開発にあたっては、求められる安全性や物理環境を想定した要件が新たに加わるわけだが、いかにそれらに対応しながら、開発のスピードやベンダーロックインの回避、オープン性を担保していくのか……。
“物理”が加わるフィジカルAIの世界では、要件の勝手も変わってくる
既に医療の現場では手術ロボットなどが活躍しているように、今後はロボティクスがあらゆる産業に入り込んでいくことは想像に難くない。また、それらのロボットにAIが実装され、今後は一次産業、二次産業を中心に多くの現場や工程がフィジカルAIによって置き換えられていくだろう。あるいは、人とフィジカルAIが同じ職場で協働するような未来がすぐそこに迫っている。
特に、昨今著しい進化を見せているAIエージェントは、まるで人間(ヒューマンワーカー)のように自律的に仕事を遂行する能力を持っている。このソフトパワーが、ロボットのような実体を持つハードウェアに搭載されたとき、新たな能力の拡張が起こる。AMDのカーク・サバン氏は、記者会見の場で「エージェントの究極形態とはヒューマノイド(人型ロボット)である」と言い放った。
フィジカルAIは、基本的に①感知(Sense)・認識(Perceive)、②状況把握・意思決定(Reason&Decide)③行動(Act)の順で動き、このサイクルを回すことで仕事をこなしていくが、これらを実行するための基盤として重要となるのが「FPGA(Field Programmable Gate Away)」という集積回路(半導体チップ)だ。これは、用途に合わせて後から何度でも再プログラム(回路の書き換え)が可能なほか、超低レイテンシ、異種センサーとの接続性といった特性を備えている。

フィジカルAIの世界では、可能な限りのリアルタイム性が求められる。自動運転のブレーキ、精密機器の組み立て、人体の手術などといった作業は、単に速いだけでは不十分だ。「ミリ秒単位の遅延・誤動作も許されない」世界である。そこでFPGAが適任というわけだ。複数センサーの情報を統合したり、データや画像を集約したりすることはもちろん、モーターの動作やバルブの開閉といった動作の予測可能な制御・ガバナンスにも役立っている。
加えて、オープンなアーキテクチャとベンダーロックイン回避も重要だ。これは、AMDがフィジカルAIに限らず従来から提唱していることだが、徹底的なオープン性を重んじる姿勢は、フィジカルAI分野でも引き継がれていくとのことだ。そして、すべてのフィジカルAIをガバナンスの効いた単一プラットフォーム内で制御・管理し、限られた電力や範囲、制約の中で実用的なパフォーマンスを維持することも欠かせないニーズとなる。
これらの思想や条件を踏まえて、順番にAMDの新発表の内容を見ていこう。
“頭脳”を司る産業用「Ryzen AI Embedded X100」
2026年1月に同社が発表したSoC(※)であるRyzen AI Embedded P100シリーズの上位版として、「Ryzen AI Embedded X100」シリーズが発表された。最大128GBのメモリを搭載し、そのメモリをCPUやGPU、NPUがシェアすることでAIのローカル処理を行える。

※SoC(System on a Chip):CPU、GPU、NPUなど各種素子を一つの半導体チップにまとめた集積回路。フィジカルAIの頭脳と位置づけられる。
なお、P100に対しX100は完全に産業向けに提供される製品であり、耐熱性などといった環境耐性の面でも様々な強化が施されている。また、3~5年程度のライフサイクルを一般的とするサーバーやPCとは異なり、10年以上使い続けることを前提とした最低提供期間が設定されている。
誰でもフィジカルAI用のソフトウェア開発が簡単に
X100を搭載してモジュール化したのが、併せて発表された開発用のボード型コンピュータ「AMD Kria AI System on Module(SOM)」だ。AMDのFPGAを搭載したエッジ開発向けの製品である。

また、同製品を搭載したハードウェア型の開発キットである「AMD Kria AI Robotics Developer Platform」も発表された。センサーやカメラなどを直接、物理的にこのマシンに接続して使う。端的に言えば、購入してすぐに、誰でもフィジカルAI用のソフトウェア開発が可能となる。

そして、そうしたハードウェアのキットを動かす統合型のソフトウェア開発環境が、「AMD Robotics Software Suite」だ。ROCmなどのソフトウェアスタックも統合されており、ユーザーは一般的なx86ソフトウェアと同じような開発のフロー・手触り感でフィジカルAI用のソフトウェアを開発できる。

加えて、オープン性やベンダーロックイン回避を担保する取り組みとして、「AMD Robotics Network」の展開も発表。フィジカルAIのハードウェアを構築するのに必要なセンサーやAIモデルなど、様々な構成要素をハードウェア/ソフトウェアを問わずパートナーエコシステムを通じて提供できるようにするという。ユーザーにとっては、クオリティを落とさずに開発のスピードを担保できるようになるメリットがある。

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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティとAI(人工知能)関連を中心に、国内外の最新技術やルールメイキング動向を取材しているほか、DX推進や、企業財務・IRなどのコーポレート領域でも情報を発信。武蔵大学 経済学部 経済学科 卒業。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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