業務は“AI社員”に任せる時代へ──ServiceNowのAI Platform刷新とガバナンスの真価
ライセンスモデルを一新 独自単位「Assist」に基づくハイブリッドモデルに転換
本格的なAIエージェント時代の到来を見据え、主要SaaSベンダーは製品アーキテクチャとライセンスモデルの見直しに動いている。ServiceNowは2026年4月、ハイブリッド型の新ライセンスモデルの採用を発表。その後、5月の年次イベントでAIガバナンスの強化を明確に打ち出している。大きなアップデートの背景に何があるのか、ServiceNow Japan 専務執行役員 COO(Chief Operating Officer)の原智宏氏に聞いた。
人から“AI社員”に業務を移転へ 3階層のエージェントが担う
ServiceNowのAI戦略を理解する上で、押さえておきたい考え方がAIエージェントのレベル感である。同社はAIエージェントを一律に捉えず、業務をどれだけ自律的に実行できるかに着目し、AIエージェントを3つの階層で整理している。
最も基本的なレベル1のエージェントは、アクセス権限の確認や承認ルーティングなど、単一の小さなタスクを実行するもの。そしてレベル2のエージェントは「Agentic Workflow」と呼ばれ、複数のタスクを組み合わせ、一連のワークフローを制御しながら動かすオーケストレーターの役割を担うものである。最上位のレベル3のエージェントが「Autonomous Workforce」と呼ばれるものだ。このエージェントは、レベル1やレベル2のものよりも複雑なタスクを実行できる。
図1:ServiceNowが考えるAIエージェントのレベル感(出典:ServiceNow)
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3つのうち、ServiceNowが最も注力するのがレベル3のAutonomous Workforceである。ServiceNowはワークフローの会社だ。図1に示すように、3階層でAIエージェントを整理している背景には「最終的には、ワークフロー単位で人からAIへの業務の移転を進めてもらいたい」という意図があるという。そのため、数で言えば、レベル1や2のものよりも少なくなるが、「ロール(役割)」に応じたエージェントの提供拡充を進めている。
Autonomous Workforceは「AI社員」と捉えるとわかりやすい。たとえば、サービスデスクの業務を5人で運用しているとする。全体の業務の3人分をAIエージェントに任せ、残り2人をマネージャー業務に専念してもらう配置にする組織設計が可能になる。この設計思想は、後述する新しいライセンスモデルにも反映されている。
最初のAI社員として提供するのが「レベル1サービスデスクAIスペシャリスト」である。業務をAIに移転させるにあたっては、担当者がどんなワークフローで業務を行っているか、十分に把握している必要がある。ServiceNowには、ITSMのワークフローのビジネスを展開してきた長年の実績がある。それをAIエージェントに使ってもらう。IT部門の業務から範囲を拡げ、他の業務分野でもAI社員を派遣できるようにするのが、ServiceNowのAI戦略の中核的ビジョンである。
原氏は「この戦略は、労働力人口が減少する日本の経済環境にも合う」と強調する。これまでのIT活用は、ユーザーが誰にどんな内容の依頼をすべきかを判断し、自身で利用するべきシステムを選んで業務を進めてきた。その際、複数システムのUIに慣れる必要があったが、これからはAIの会話型インターフェースが学習負担を軽減してくれる。自然言語で依頼すると、AIが適切なワークフローに当てはめてプロセスを実行するのだ。その先には、AIに任せる役割と人間が担う役割を切り分け、人間は実行そのものではなく管理監督を担う未来像があるという。
「AI Platform」に刷新 能動的な行動を促す仕組みを搭載
企業内のワークフローは、IT関連に限らず様々な部署を横断して実行する場合が多い。単に依頼を誰かにルーティングするだけの窓口であれば、それは単なる取次に過ぎない。ServiceNowは、依頼から完了までを一貫して同じ場所で完結させ、進行状況をエンドユーザーに随時伝えることを重視している。加えて、承認ルールやセキュリティポリシーを適用し、不必要な情報を露出させない制御も組み込む。基本的にUIは会話型ファーストだが、その裏側では進捗管理やルーティングが常に制御されており、単純なものにとどまらず、エンドユーザーが置かれている状況に応じた高度なパーソナライゼーションを提供できる。
5月に行われた年次イベント「ServiceNow Knowledge 2026」では、このビジョンを支える3つの主要製品が紹介された。まず「EmployeeWorks」は、ユーザーを個別システムのUIから解放する一元的なUXとして提供されるもので、業務の起点になる依頼内容を自然言語で受け付ける入り口に該当する。次に、前述したAutonomous Workforce。そして3つ目の「AI Control Tower」は、AIをどこで、どの程度利用し、どれだけ価値を創出しているかを1つのダッシュボードで可視化するガバナンス基盤である。さらに、従来のNow Platformは「AI Platform」へと刷新され、これまでになかった新しいアーキテクチャブロックが組み込まれた。
図2:「ServiceNow Knowledge 2026」で発表された製品アーキテクチャ(出典:ServiceNow)
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そのアーキテクチャの最上位にある「ServiceNow Otto」とは、新しいデザインプリンシプルである。エンドユーザー向けのEmployeeWorksだけでなく、開発者向けのAgent Build のUIでも統一感のある使い勝手になるよう、ServiceNowの製品全体に適用されている。
そして原氏が指摘するServiceNowのUIの最大の特徴は、「My Campus」と呼ばれるウィジェットを提供していることだ。ChatGPTやClaudeなど、エンドユーザーは既に会話ウィンドウだけの画面に馴染んでいることだろう。しかし、ビジネス活動における業務の起点は、必ずしもエンドユーザーからの依頼とは限らない。人事からの研修受講の要請、部下からのレビュー依頼など、特定の部署やチームメンバーからのプッシュが起点になる場合も多い。エンドユーザーが気づかなくても能動的に行動を促せるよう、従業員起点の依頼のための会話ウィンドウと組織起点の通知を並べて表示する仕組みがMy Campusになる。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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