ドメイン知識の豊富な現場が、どこまで主体的にAIを実装できるのか。2026年6月25日から2日間にわたり開催された「AWS Summit Japan 2026」では、「SUBARUのエンジン設計現場発─生成AI ×設計業務改革─」と題して、SUBARUが講演を行った。同社の非ITエンジニアが登壇すると、AWSの生成AIソリューションを用いながら、AI エージェントを構築・活用している事例が紹介された。
「GenU」導入で踏み出した、“生成AI”活用ジャーニー
「Generative AI Use Cases(以降、GenU)」は、AWS Japanの有志がAmazon BedrockやAmazon Kendraなどで構築した生成AIアプリケーションである。チャットボットやRAG(検索拡張生成)、画像生成など、すぐに業務で活用できるユースケースが充実している点が特長だ。興味はあるものの、どこから始めていいかわからないというユーザーでも、気軽に試すことができる。また、オープンソースソフトウェアとしてGitHubに公開されており、自由にカスタマイズ可能だ。
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今回、スピーカーとして登壇したSUBARUの本間勇人氏は、非ITエンジニアながらも所属するパワートレイン設計部にGenUを導入し、生成AIやAIエージェントを構築。それらを適用する業務範囲も拡大してきた。そのジャーニーは、AWSの月額予算として10万円を確保するところから始まったという。そもそも当初からGenU導入を決めていたわけではなく、Amazon EC2やAmazon SageMakerで独自の仕組みを構築することも視野に入れていた。
では、なぜGenU導入に至ったのか。本間氏は、その理由として下記5つを挙げた。
- AWSのガイドラインが整備されていて、非ITエンジニアでも扱いやすいこと
- 従量課金制のため、スモールスタート/スモールサクセスが可能であること。また、GenUと同様の仕組みを外部委託して構築すると、最低でも数千万円規模の投資が必要になり、稟議にも時間がかかってしまうこと
- GitHub上でコードが公開されており、透明性が高い仕組みであること
- ReactとTypeScriptで書かれており、自分たちでカスタマイズできる柔軟性を備えていること
- 日々アップデートされており、AWSの進化に追随しやすいこと
本間氏が最初に試したものは、社内情報検索のユースケースだ。GenUの機能である「RAGチャット」を用いることで、エンジンの設計業務において“Oリング(ゴム製シール部品)”の設計を検討するとき、チャット欄から質問を入力するとLLMが回答を返してくれるようなものを構築した。ただし、その根拠は設計検討書や設計マニュアル、報告書など、社内文書である点が汎用的なAIツールを利用する場合と異なる点だ。そうした要件を踏まえながらもGenUを利用することで、設計者が迷わずに検討できる環境を迅速に整えている。
社内情報検索からスタート 他部署にも活用範囲を拡大中
2024年から始まったSUBARUでのGenU導入。トライアル期間以降は、パワートレイン設計部から他部署に導入していき、2025年には技術本部全体へと適用範囲を拡大させている。当然ながら、導入するだけで何もしなければ、組織全体へと活用の輪を拡げることはできない。そこで、本間氏は部内でのハンズオンセミナーの実施、各部署の代表者へのフォローを重ねるなど、少しずつユーザーを増やすための施策を重ねた。また、同社が刊行する情報技術誌『SUBARU技報』への掲載、トヨタグループ内のイベントでの表彰なども認知向上に貢献したと本間氏は見ている。なお、GenUの利用が拡大していく過程では、ユーザーからの要望に応えるため、RAGの回答精度の向上やフィルタリング機能の追加などの機能強化も、外部に委託することなく実施したという。
ここまでGenUの利用範囲が拡大した理由について、本間氏は3つの理由を挙げながら説明した。まずは、仲間づくり。「現場を理解しているのは現場」との考えから、各部署から代表者を指名してもらう“各部代表制”を採用することで、各現場主導でAI活用が進んでいく体制を整えた。
次に、宣伝活動。意図したつもりはなかったとしながらも、前述したような社内外の表彰制度なども利用することで、多方面からの認知向上に努めたという。そして、方向性を確認しながら進めてこられた点も大きいとする。IT部門長への早期相談、AWSサポートからの情報収集、他社事例の参照など、スモールサクセスを積み重ねながら軌道修正を続けてこられたとした。
また、SUBARUでは、GenU以外のAIツールも利用しているが、その使い分け方は明確だ。設計関連資料のような機密性の高い社内文書の検索、現場需要に根ざしたユースケース、およびAIエージェントを利用しての業務高度化には、GenUを用いた仕組みを活用する。一方、事務作業、一般的な情報検索、要約のような汎用的な用途には、別の社内標準ツールを用いている。
さらに、利用範囲が拡がるにつれて、部署ごとに需要の高いユースケースが異なる点も浮き彫りとなってきた。
たとえば、機能別の利用率を見たとき、パワートレイン設計部ではRAGとチャットがそれぞれ約4割、量産設計の部署ではRAGが9割弱、市場品質の部署ではチャットが過半数を占めている。本間氏は、製造現場が求めているものは「各部署のニーズに合ったAIの提供」「ITエンジニアリソースに依存しないテクノロジー実装」「ツールアクセスの共通化」にあると考えており、GenUならば対応できるとした。そして、現在チャレンジしているのは、Amazon Bedrock AgentCoreとStrands Agentsを用いた、“マルチエージェント”の構築だ。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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