ここ最近、秘密情報の漏洩に関する様々な裁判を取り上げてきましたが、今回はそうした数々の事例も踏まえつつ「では、組織に求められる情報管理の在り方とは」を考えてみましょう。考えるうえでは、これまで取り上げてきたような実際の判例だけでなく、経済産業省の『営業秘密管理指針』なども参考となります。内部からの情報漏洩を防ぐのは難しいことではありますが、それでも企業として果たすべき責任があり、できる限り対策を講じなければならないことは言うまでもありません。さて、皆さんの組織ではいかがでしょうか。
防止が難しい“内部者”による営業秘密漏洩
本連載ではここ最近、連続して営業秘密の漏洩についてお話ししてきました。退職者や情報システムの運用担当者などが、顧客情報、技術情報、その他未公開情報などを社内のサーバーからダウンロードして持ち出し、ライバル企業に渡してしまうというようなことは頻繁にあるらしく、民事、刑事を問わず近年の裁判でも散見されるようになりました。実際、私の周囲でもこうした事件の話を聞くようになっています。
自分たちが長年かけて築いてきた顧客との関係や、心血を注いで開発した技術、営業戦略などを簡単に持ち出されて、それがそっくりライバル企業の資源となってしまうわけですから、サイバー攻撃と並ぶ大きな脅威です。そして、こうした漏洩は正当な権限を持つ者が正規のルートで情報にアクセスすることで発生するため、防御はなかなかに困難です。
対策として、たとえば情報の入っているサーバーを社内のイントラネットから切り離したり、アクセス権限を極端に絞り込んだり、すべての情報についてダウンロードに他者の承認を必要とする仕組みを作ったりするなど、セキュリティを厳しくすることは技術的には可能でしょう。しかし、これが行き過ぎれば、業務の円滑な遂行に支障をきたしかねません。システムに格納されている営業秘密を守るには、このあたりが非常に難しいところです。
そこで今回は、いつもの判例解説とは少し趣を変えて、こうした問題について経済産業省の『営業秘密管理指針(※)』を参考に考えていきます。
※経済産業省『営業秘密管理指針』
「営業秘密」の定義をおさらい
まず、「営業秘密」の定義についておさらいしましょう。これまでも連載の中で何度か解説しましたが、不正競争防止法第2条6項に定められているところでは、おおむね以下のように定義できます。
1. 秘密管理性(秘密として客観的に認識できる管理がなされていること)
アクセスするために個人の認証IDとパスワードが必要な基幹システム内のデータ、フォルダ名やファイルヘッダーに「社外秘」「親展」と明記され、特定のプロジェクトメンバーしか閲覧権限がない業務設計書など。
2. 有用性(事業活動において有用な技術上または営業上の情報であること)
過去の販売実績から導き出した「顧客ごとの購買傾向分析データ」、自社工場でコスト削減を実現している「製造ラインの工程管理ノウハウ」、競合他社に対する優位性を保つための「仕入れ価格表」など。
3. 非公知性(一般には知られていない情報であること)
自社が独自に開拓した「Web未公開の取引先担当者名簿」、社外秘で開発を進めている「新サービスの企画画面」など。
これらの定義は、裁判などで「不正競争防止法違反があったかどうか」の判断の根拠となるものですが、情報システムと情報を管理するうえでも、「そもそも何を守るべきなのか」という大枠を考えるうえで参考になるかと思います。守るべきものは守り、そうでないものに過度な資源を投入しないことは非常に大切です。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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