契約書なしでも“契約の成立”が認められるケースとは?
ご覧のように裁判所は、正式な契約書はなくとも、元請と下請けが追加作業について明記した資料を共有していたことを、契約を示す一つのエビデンスとして認めました。
ただし補足すべき点として、判決の他の部分を見ると単に「こうした文書があればよい」というわけではなく、実際に下請ベンダがこれに基づいて作業を行い、成果物にも一定の品質があったこと、そして元請側も下請がこのような作業を行っていることを承知し黙認していたことも、契約の存在を認める重要な要因となったようです。
「何を、いくらで、いつまでにやるか」を明確にした文書が共有され、実際に行われ、発注者もそれを知って行わせていた……。こうした事実が存在していれば、契約書なしでも契約が認められる可能性があるといえるでしょう。
油断は禁物!何が「契約書の代わり」になるか分からない
実際のシステム開発や運用の現場では、契約書を開きながら仕事をする人はいません。プロジェクトマネージャーは、プロジェクト管理資料や各種連絡、メールなどを見て仕事をします。開発エンジニアは、設計関連文書や要件定義書、要望、機能一覧、課題管理に関する書類などを見ます。運用担当者はトラブルチケットなどを見ます。そしてユーザは、会議で要望を伝えます。つまり、プロジェクトを実際に動かしているのは契約書ではなく、日々のコミュニケーションとその記録です。
裁判では、まず契約書の存在とその記載内容が問題になります。たしかに、それは大切なことです。しかし、契約書面の記載では作業内容を正確かつ網羅的・具体的には表現しきれないのが情報システムの常であり、だからこそ前述したドキュメント類のほうが、はるかに実態に即した作業や役割・責任を表すわけです。また、それを当事者が(黙認も含めて)認めたかどうかも、プロジェクトを進めるうえで、さらに双方の責任を明らかにするうえで、契約書に匹敵する重要な事項といえます。
今回の事件では、裁判所がそうした開発現場の実態をよく理解して判断したのだと思います。しかし逆にいえば、プロジェクトの受発注時にやりとりする文書やメール、あるいは言葉、それに対する態度というものが、そのまま契約内容になる、あるいは契約内容に影響するということもあり得るわけです。よって、発注者・受注者にかかわらず情報システムに携わる以上は、これらを疎かにはできず、慎重な書類の作成と、網羅的かつ詳細な確認・承認が必要になる。今回の裁判は、そんなことを教えてくれたような気がします。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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