米国ラスベガスにて、Workday(ワークデイ)の年次フラッグシップイベント「Workday Rising 2026」が開催中だ。2026年11月12日~15日(現地時間)にわたり、数々の新発表や講演、分科会、展示などが行われる。

今年は、共同創業者であるアニール・ブースリ氏がCEOに復帰して最初のRisingとなる。同氏はキーノートの冒頭で、「今回のカンファレンスのテーマは、『Show not Tell(言葉ではなく実物で見せる)』だ」と宣言。昨今のAI関連のカンファレンスを見ているとスライド資料ばかりが目立つと述べ、Workdayは研究の進捗をスライドで説明するばかりではなく、実際に運用可能な本物のプロダクトを披露すると自信を示した。実際、今年のキーノートは例年よりも遥かに多くの実製品デモが用意されていた。
ブースリ氏は、自身と同じく創業者が経営トップに復帰した例として、Appleのスティーブ・ジョブズを回顧する。当時のジョブズは、Appleの「スタートアップ・カルチャーへの回帰」を掲げた。すなわち、迅速な意思決定と組織ヒエラルキーの緩和を取り戻し、立場を問わず常に最高のアイデアを採用し、さらには明確な責任範囲を確立することを目指したのである。
ブースリ氏らもこの精神を取り入れ、Workdayは「巨大な顧客基盤とデータを活用できる最強のスタートアップ」として再出発すると述べた。今年は、会場内の至るところで“New Workday”というキーワードが掲げられている。
“New Workday”を体現するために、まずは自社の組織改革から
具体的には何が変わったのか。まずはWorkday内の組織改革だ。ブースリ氏の復帰前は、AIエージェントやAPI、Data Cloudなど、それぞれの技術・製品ファンクションの中で責任者が分散している状態だった。しかし同氏の復帰後は、「1つの領域に1人の責任者(ワン・オーナー)」を配置する統合型組織へとシフト。これにより、意思決定が迅速になり、責任の所在も明確になったとのことだ。
次に、顧客とのパートナーシップへの回帰。AIとは、従来の半期ごとにリリースされるようなソフトウェアとは違い、毎週のように反復し、データと成果をチューニングしながら顧客とともに育てていくものである。そのため、顧客との密な連携・共創が、プロダクトの進化そのものを左右する。
そして、新たなリーダー陣も迎え入れた。2025年にCTOに就任したゲイブ・モンロイ氏、全アプリケーションの統括責任者にマックス・ウェッセル氏、さらには2025年に買収したSanaの創業者であるジョエル・ヘラーマーク氏がCAIOに就任した。
ミスが許されない人事・財務の世界に、どう確率論的なAIを持ち込むか
Workdayのシステムが扱うのは、人事(HR)や財務といったミスが許されない領域だ。給与の支払い、決算、人事データなどを司る基幹システムは、LLMによる推論を必要としない決定論的な世界であり、常に100%の正確性が求められる。時に誤った予測や結果を導き出す確率論的なAIで、給与の支払いや決算業務を行うわけにはいかない。また、スピードを重視するあまり誤動作をいとわない無法なAI(Lawless AI)に、精密性が必要となる業務を任せるわけにはいかない。

そんな背景を踏まえ、Workdayが探究するのは実業務で本当に役に立つ「決定論的システム×確率論的AI」の在り方である。今回のRisingで発表された新製品やリリース、アップデートの数々は、この思想に基づいている。各発表の詳細については、別の記事で詳述する。
ブースリ氏は、単一のデータモデル、単一のセキュリティモデル、単一のソフトウェアバージョン、加えて、全世界8,000万人以上のユーザーデータと、年間約1.4兆に及ぶトランザクションが、エージェンティック時代のWorkdayの優位性になると強調した。これらをもとに生み出される組織構造、承認ルール、経費ポリシーなどのWorkdayならではのコンテキストが、AIを正しく導く「決定論的なレール」として機能するからだ。また、同社は2025年の頭に、AIエージェントの統合管理基盤である「Agent System of Record」を発表し、様々なベンダー、部門、エッジにまたがるAIエージェントを統合管理するアプローチを、他社に先駆けて具体的な形で示した。この基盤が、AIエージェントの逸脱を許さない決定論的な基盤として、今こそ真価を発揮する。
こうした決定論的な基盤があって、初めて確率論的なAIは「Lawful AI(秩序あるAI)」へと昇華する。

「Sana」がWorkdayのフロントドアに:UI/UXの転換
今回、Workdayの変化としてもっとも注目されていることの一つは、2025年に買収したエンタープライズ・ナレッジプラットフォームの「Sana」がWorkdayのデフォルトUI、すなわちフロントドアに据えられた点だ。かなり大きなUI/UXの変更に踏み切った。

Sanaは、買収当初はWorkdayプラットフォーム内で各種AIのオーケストレーション、横断的な社内検索などを担う一機能、あるいはレイヤーになるという印象が強かった。それ自体は今でも大きく変わらないが、おそらく多くのユーザーが想像していた以上に、SanaがWorkdayの最前面に出てきた。筆者の所感を交えると、「Workdayが人とAIによる協働の在り方を追求した結果、よりエージェントネイティブなSanaに寄せるアプローチをとった」といえるだろう。
これにより、プラットフォームを開いてすぐ最初に出てくるインターフェースが、従来のような画面上でのメニュー選択やクリック主体のUIから、自然言語による対話型インターフェースへ変化した。たとえば、トップ画面で「先月の粗利を事業部門別に出して」と自然言語で投げるだけで、システム内を横断して必要な情報を即座に提供してくれる。また、業務領域に関係なく必要なエージェントを即座に呼び出して必要なタスクを自律的に実行させ、休暇申請や経費精算などといった300以上の財務・経理業務を自動化・自律化できる。なお、ここで呼び出せるAIエージェントは、Sanaのネイティブエージェントだけでなく、Claudeなどの外部エージェントも含まれる。ヘッドレスアクセスか、あるいはSana上のネイティブエージェントを使うかは、ユーザー側の環境や要件に合わせて選択できる。なお、ヘッドレスを選択した場合でも、Sanaのエージェントはいつでも呼び出せるアーキテクチャになっている。
Sanaの具体的なUI/UXの詳細や、その他様々な新発表については、別の記事で個別に詳述していく。また、会期中に行った同社キーマンたちへのインタビュー記事も、EnterpriseZineにて掲載予定だ。
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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティとAI(人工知能)の分野を中心に、ソフトウェア/ハードウェアを問わず国内外の最新技術やルールメイキング動向を取材。そのほか、DX推進、IRなどのコーポレート領域でも情報を発信。※取材のご案内等は個人のメールアドレスか、EnterpriseZine編集部の問い合わせ窓口にお願いいた...
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