2026年9月14日に情報処理推進機構(以下、IPA)が開催した「IPA フォーラム 2026」。その中で、さくらインターネットの田中邦裕社長と、IPA 理事長の齊藤裕氏が対談するセッションが行われた。国産AIインフラの未来を背負う一社であるさくらインターネットの代表として、田中氏は現在の日本の産業構造に対しどのような課題を感じているのか。AIインフラとは、様々な素材、部品、エネルギー、計算資源の集合体だ。これらをすべて自国でつくれるようになるためには、ものづくりの事業構造や技術・事業・人材を育てる仕組みを見直さなければならない。
日本ではアーキテクチャを描ける人材が育たない?
最初の論点は、日本の「システムデザイン力」の現状について。現在、経済産業省の主導により産業基盤からサービス、現場のDXまでをつなぐフルスタックの産業構造づくりが進められている。IPAの齊藤氏によれば、これまでの日本のIT産業は、個別システムの構築には長けていたものの、社会や企業全体を俯瞰してアーキテクチャを描く力は弱かったという。
これに対しさくらインターネットの田中氏は、「描ける人材や会社自体はそれなりにいたのではないか」と応じる。しかし問題は、そうした人材や会社に対し、相応の報酬や投資が投じられているかだと語る。今の日本はものづくりに十分なお金が回っていないのではないか、というのが田中氏の見解だ。
田中氏が理想とするのは、製造業で採られているような垂直統合型の産業構造だ。IT業界では、この30年で水平統合/水平分業のモデルが極められてきた。たしかに、水平分業は個々の事業を回すうえでは効率的だ。しかし、分散した各社が利益を得るために多層レイヤー化し、それを全部足すと最終的には高コストで肥大化した構造となってしまう。そのうえ、せっかく多くの利益をあげても、そのお金が働く人の給与にも、次の最先端開発への投資にも回らず、外へ流れ出てしまう。言うなれば、稼ぎが次の「つくる力」につながらない構造である。これが日本の問題だと田中氏は指摘した。
「手段にこだわる」ところからアーキテクト人材が生まれる
この意見を受けて齊藤氏は「分業化していくと、それぞれの担当分野しか知らない人ばかりになってしまい、全体を俯瞰できる人がいなくなっていく」と述べ、なぜアーキテクト人材が育たないのかと投げかける。
これに対し、田中氏は「『手段』にこだわることで全体最適のセンスが磨かれていく」との考えを示した。最終的に出来上がるものは、車輪の再発明になってもよい。大切なのは、つくる手段と工程である。既存コンポーネントの組み合わせだけなら誰でも可能だが、つくる過程で「これを自作できないか」「仕様を変える必要があるか」などと自分で考えてみるところから、全体のデザインへの意識が生まれていくという考えだ。
吹奏楽の合奏を例に挙げると、楽器(手段)ごとに音もスピードも異なるうえ、指揮者によって全体のオーケストレーションや曲の出来上がりは違うものになる。指揮者としての役割を果たせる人材と、手段にこだわってもよいのだというカルチャー、このセットが重要ではないかと田中氏。そして、この思考は現場とトップの両方に求めるべきだと述べる。
田中氏自身も、NVIDIAと組んでAIインフラに投資する中で、手段にこだわってきた。「良いGPUを買えば誰でもAIインフラをつくれる」と思われがちだが、そう簡単な話ではない。AIインフラとは様々なファクターの集合体であり、その一つひとつを手掛ける会社によって、壊れやすさも、パワーキャップの上限も、ネットワークの速度も異なってくる。「AIファクトリーとは、すり合わせ型の最たる例である。適当に組み合わせても動かない」と同氏は強調する。
ただし、昨今の「指揮者のような人材」ばかりもてはやされる様子に対しては、田中氏は少なからず危機感を抱いている。専門性もまた等しく重要だからだ。最近、生成AIでつくられたポスターやチラシが街中の至るところで見られるが、どこか変なデザインだったり、見にくかったり、ロゴが間違っていたりと、見る人が違和感を感じるものも少なくない。生成AIは、デザイナーに外注せずともそれなりの制作物をつくれるが、デザインが分からない人が手段だけを使っても、成果物の歪さに気付かないままリリースしてしまう危険性があるというわけだ。「専門人材が要らなくなるかのように囁かれている今の社会は、かなり危険だと思う」と警鐘を鳴らした。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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