経営層からは、「AI活用をビジネスの価値創出につなげてほしい」というプレッシャーが高まるばかり……。この難局において、セキュリティリーダーはどう組織に貢献すればよいのか。来日したガートナーのアナリストであるトム・ショルツ氏に、同社が発表した2026年のサイバーセキュリティ トップ・トレンドをもとに解説してもらった。
2026年版セキュリティリーダーが注目するべき6つのトレンド
ショルツ氏は、セキュリティリーダーが注目すべき2026年のトップトレンドとして、次図の6つを挙げる(図1:下部)。
トレンド選出にあたっては複数のマクロ要因を考慮したが、同氏が最初に指摘するのは「生成AIからの価値実現」だ。AIをビジネス価値の創出にどう活かすかは、経営層のほぼ全員が重要なテーマとして認識している。既にあらゆる部署が、AIで何ができるのか検証を試みている。ただし、セキュリティチームから見れば、これはリスクマネジメントの難易度を上げる要因になる。
その他、COVIDによる世界的なパンデミックで明らかになったサプライチェーンの相互依存、目まぐるしく変化する規制動向、脅威の進化といった要素も、リスクマネジメントの負荷や在り方に影響を及ぼしている。
「今やセキュリティリーダーは、毎朝起きるたびに常に新しいチャレンジに直面する。山に登るのと同じような心境になるのでは……」ショルツ氏はそう述べつつも、「頂上を目指すための地図とガイドがあれば、それは少なくとも有意義な体験になるのではないか」との持論を展開。トレンドを3つの山に喩えて分類した(図1:上部を参照)。
3つの山
- AI導入を常態化させる:セキュリティを適用し、企業活動におけるAIを当たり前のものにする
- ガバナンスを変革する:サイバーセキュリティのガバナンスに関して変革が求められている
- 新たなフロンティアを保護する:AIが作り出した最前線(フロンティア)を守る方法
3つの山には、それぞれに関わるトレンドが2つずつ位置づけられている。ショルツ氏は、なぜそのトレンドが重要なのか。また、企業は何をすべきなのかを解説した。
怪しいメールに注意していればよい時代は終わった……
最初のトレンドとして挙がっているのは、「生成AIは従来のサイバーセキュリティ啓発手法を覆す」というものだ。ここでいう“啓発”とは、エンドユーザーにリスクを認識してもらい、今のテクノロジー環境でどう振る舞うべきか理解してもらうことを意味する。背景には、ここ10年で攻撃手法が多様化したことがある。たとえば、以前はメールベースのフィッシング攻撃が中心だったが、今では脅威はより複雑に、よりわかりにくくなっている。問題そのものも複雑になってきた。
特に、これから深刻な問題となりそうなのが、ディープフェイクを用いた攻撃である。たとえば、経営幹部の声で「急ぎ確認したいことがあるので、ユーザーIDとパスワードを貸してほしい」と頼まれたら、社員はどうするか……。こうした巧妙な手口に対しては、単に攻撃手法を紹介し「注意してください」と呼びかけるだけでは不十分だ。CISOは、時間をかけてエンドユーザーにAIにまつわるリスクを説明しなければならない。AIを自分で使う場合のリスクもそうだが、AIを悪用した攻撃のリスクに対しても理解を深める機会を作り、ガバナンスの効いた環境でAIを活用することの重要性を理解してもらう必要がある。
SOCのオペレーションやスキル要件も変わる
2つ目のトレンドは、「AI主導型のSOCソリューションが従来の運用慣行を揺るがしている」というものだ。AIを業務オペレーションの自動化に利活用する試みが増えてきた。SOCの現場も例外ではない。
自動化は機会でもあり、リスクでもある。自動化を進めれば進めるほど、属人化や煩雑化は解消されるものの、チーム内に蓄積されたナレッジが利用されなくなっていくためだ。ここで重要となるのが、人間側の「リスキリング」である。自動化によって浮いたリソースを、より高次の業務に配分・配置すること──その際、新しいナレッジやスキルの獲得が必要になる。重要な組織スキルを失わないようにするため、スキルを階層化して整理してみることをショルツ氏は勧めた。なかでも大切に維持すべきは、論理的思考や倫理的な判断のような「人間らしさ」に直結するスキル、脅威の分析やチームでのコミュニケーションで必要となるスキルだという。
一方、自律型エージェントの監視、サイバーセキュリティポリシーの自動化、AIを活用した脅威ハンティングなど、SOCチームとして新しく獲得すべきスキルもある。基本的なレポート作成、簡単なプレイブックの実行などはAIに代替されていくだろう。スキルを整理すれば、新しいSOCチームの姿とリスキリングの方向性が見えてくる。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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