清水建設が「20億円プロジェクトを常駐者2名で」を目指す切実な理由、AIでデジタルゼネコンにも変化
「Autodesk Design & Make Summit Japan 2026」レポート
清水建設は「AI活用」をどのように検証しているのか?
清水建設では、構造躯体モデルから鉄筋モデルを自動生成するシステムの構築も進めている。その狙いは、プロジェクトにあわせた配筋仕様を迅速に決めることだ。たとえば、鉄筋の納まりを決めるとき、「柱を太くする」「アンカー部分の形状を変える」といった調整が発生する。これらを確認申請の前段階で処理できれば、“見積もり落ち”をなくせると考えた。
ただし、この仕組みはデータが揃っていなければ機能しない。実際には、データの欠損があるケースが大半で、構造データを受け取った後、ゼネコン側で配筋データを入力しなければならないことも多々ある。そこで、清水建設が活用を試みているのが「生成AI」だ。ある若手社員がわずか3日で構築したのは、断面リストを入力するだけでAIが“大梁リスト”から梁とタイプパラメーターを出力する仕組みである。画像認識をベースとしているため精度向上の工夫こそ必要なものの、チャット形式で作業量の削減につながる仕組みができたことに手応えを感じているという。
また、鉄筋の構造データやモデルに自動変更を加える際、“指摘事項”という文字情報を設計にどのように反映するかも課題となる。清水建設では、ワークフローシステムに「Autodesk Forma」を採用しており、Before/Afterのデータと指摘事項の文字情報をForma上に集約している。三戸氏は、このデータを充実させるため、鉄筋一筋50年のベテランがもつノウハウをデータ化し、蓄積することを進めているという。
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さらに、FormaのデータをMCPサーバーに接続し、エージェント化する可能性も見えてきた。現時点では、AIに学習させるデータを収集している段階にある。2025年だけでも集めた指摘事項のデータは1万5000件。これらを用途別、構造別、工種別に分類する。また、「防水の専門家による指摘だけを集めたい」といったニーズもあるため、誰が指摘したものか整理も必要だ。こうした蓄積されたデータを活かすことで、定型的な指摘を即座に通知するような新たな仕組みを構築することも視野に入る。たとえば、指摘された箇所にロボットを派遣し、問題の部位が実際にどのような状態にあるのかを確認する、ということも実現できそうだ。
建設業界の改革は待ったなし、AIはチャンスだ
「一連の取り組みが奏功すれば、現場監督のエージェント化が可能になるのではないか」──三戸氏は、その先の将来を展望する。
たとえば、鉄骨のエージェントや鉄筋のエージェントだけではなく、検査のエージェント、原価管理のエージェント、積算のエージェントなど、専門性に特化したエージェントを構築。それらを統合し、現場監督の作業補助を担ってもらうような構想だ。その実現に向けては、紙の図面情報をデジタル化しただけでは使い物にならない。少なくとも、先述した4ステップのうち「デジタライズ」を終わらせることは必須の要件だろう。
当然ながら、現場監督のエージェント化に向けては、プラットフォーム整備への投資を活かせる。むしろ、AIの登場でプラットフォームの重要性があらためて明確になった。組織全体で「現場監督のエージェント化」というビジョンを共有できれば素晴らしいが、まだまだ温度差を感じる場面もあるようだ。
特定の課題解決に特化したアプリケーションやソフトウェアは、データサイロを生み出し、DXのため整備してきた道筋を破壊してしまうリスクがある。一方、清水建設が注力するプラットフォームは、業務を一元管理するデータベースに相当する。三戸氏は、「DXを人間の仕事を楽にするためにやるのか、人間の仕事をなくすためにやるのか、考えてほしい」と訴える。前者の場合、テクノロジーの選択基準が“使いやすさ”になり、仕事に追われつづけてしまう。そうならないためには、人間の仕事をコンピューターに代替してもらう前提で考えることが必要だ。
だからこそ、単純な情報共有でもプラットフォームが必要となるため、清水建設ではプラットフォーム戦略を徹底する。これは、プラットフォームこそがエージェント構築の学習データを蓄積する場所にもなり得るためだ。
「そこまでやる必要があるのか」と、特殊な建築工事の需要に対応できる自負から反論されることもあると、三戸氏は打ち明ける。しかし、建設業界を取り巻く環境は、現状維持を許してくれない。2000年代初頭、50兆円規模だった建設投資の規模は、2026年現在では70兆円規模にまで拡大した。一見すると成長しているように見えるが、建築着工床面積で見ると、1.8億平米から1億平米に縮小。実際の建設需要は縮小傾向にある。さらに、建設業就業者数はこの20年で100万人減少しており、今や外国人労働者が現場を支えている状況だ。現場の気持ちは理解できるものの、「そこまでやる必要はない」とは到底言えない。
暗い話ばかりではない。AIが非常に身近になったことはチャンスだ。テクノロジーをうまく使えば、現場の施工管理に役立つエージェントを生み出せる。日本全体の生産性向上に向けても、テクノロジーを活用することで活路を切り拓いていく。「皆さん、一緒にデジタルの階段を上っていきませんか」と呼びかけて、三戸氏は講演を結んだ。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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