この連載では、これまでどちらかというとユーザ側に厳しい判決の出たIT紛争事例について書いてきましたが、そもそも、IT訴訟というのは、いつもこユーザ側に厳しい判決が出るものなのでしょうか。もちろん答えは否です。裁判では、ベンダに厳しい判決もかなり出ており、「ユーザが期限通りに要件を決めないのは、ベンダが、ちゃんとプロジェクト管理を行わないからだ。」とベンダの責任を重く見るものが多く見られます。もし、ユーザ側の立場にある読者の皆様が、これらの判決を見たら、「あー、自分はコッチ側の人間でよかった。」 なんて感想が出てくるかもしれませんね。
ITベンダにも厳しい裁判所の判断
そんなこともあり、今回は、紛争の責任をベンダ側に求めた例をご紹介したいと思います。「そんなの、ユーザが読む必要あるの?」 とお思いの方もいるかも知れませんが、そもそもITプロジェクトはユーザとベンダの戦いの場ではありません。双方が協力して良いシステムを導入し、良い結果を得ることを目的としています。そして、もしもベンダが、その役割や責任を十分に果たせないときには、ユーザがベンダを助けてあげなければならないのです。今回は、そんなことも考えながらお読みください。まずは事件の概要です。
【契約範囲を超える機能追加に関する裁判の例】
(東京高等裁判所 平成26年1月15日判決より抜粋・要約)
ある出版社 (以下 ユーザ)が、ベンダに新基幹システムの開発を委託したが、開発したシステムには多数の不具合が発生し、当初納期を半年過ぎても150件あまりの不具合が残存していた為、ユーザはこれを検収せず、その後数ヶ月を経ても、システムの不具合はなお数十件残存し、改修の見込みも立たない為プロジェクトは頓挫した。ベンダは不具合の残存は認めたものの、その原因はユーザによって、外部設計工程に入っても繰り返された要件変更にあるとし、また、システム自体は完成していることから、ユーザに費用を請求するが、ユーザはこれを拒否して紛争となった。
“お決まり” というか典型的なパターンと言って良い紛争でしょう。 「システムは完成したからお金ください。」 、「バグが多くて使えない。完成したなんて言えない。」、「いやいや不具合が多いのは、お宅が要件変更を繰り返し過ぎたからでしょ。」 と言ったやりとりが目に浮かぶようです。
さて、こうした争いについての判決は、もちろん、それぞれの紛争の背景や事情によりさまざまです。ですが、判例を色々とみていると、裁判所が、要件定義でもユーザとベンダの責任をどのように考えているのかが、透けて見えてきます。その辺りをご紹介した上で、こうした紛争に陥らないために、ユーザとしては、どのようなことに心がけるべきかを考えてみたいと思います。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...
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