不確実性の高い経済・事業環境でも、「支出」は比較的コントロールの容易な要素に見える。もちろんコスト削減は大事だが、経営幹部にはそれ以上のことが求められている。SAP Connect 2025の「Spend Management Connect」では、グローバル企業で働く調達部門のリーダーを対象に、調達プロセスの自動化を進め、よりスマートなインサイトを提供する次世代Aribaの紹介があった。
AIネイティブに変わった次世代Ariba、ゼロからの再構築で実現
地域紛争、保護主義、インフレーション、さらには規制強化まで、対応の難しい問題が次々と発生している。そのすべてが調達に打撃を与えている。経営における調達機能の重要性はかつてないほどに高まっている状況だ。
しかも、これまでの成功パターンは通用しない。マッキンゼーの調査によれば、これからの調達リーダーには、コスト削減よりも収益性、レジリエンス、EBITDAを高めること、すなわち“企業価値増大”への貢献が求められているとわかった。同時に、人口動態の変化に代表される逆風への対応にも迫られている。
テクノロジーの活用でこの状況を打破したい……そう考える企業に向けて、SAPはAribaが提供するSource-to-Pay(S2P)ソリューション(以降、Ariba)をAIネイティブなものに刷新した。
その基本方針は、「企業が調達のやり方を変えるのであれば、SAPも同様に従来のやり方を変えよう」というものだ。これまで調達の世界では、一般消費者向けのコマースサイトのユーザー体験が良いとされてきた。しかし企業の調達においては、サイトのおすすめ商品をすべてカートに入れてチェックアウトするようなことはできない。
SAP Aribaのプロダクトキーノートでホストを務めたバブァ・ファルーク氏は、次世代Aribaの目指す方向性について「企業の調達の未来は、コマースサイトではなくロボタクシーのWaymoの体験にある」と説明した。慣れない場所で車を借り、渋滞の中を運転し、駐車場を探して周辺を回らなくても、確実に目的地に到着できる。クルマ体験の大部分をテクノロジーに委ねることで、人間は他のことに時間を使える。
バブァ・ファルーク氏
(SVP, Product Marketing, SAP)
このAribaの再構築は、調達部門が自動化の力を活用し、利益の確保、供給の安定化、そしてレジリエンスの確保をサポートすることを意図して行われたものだ。ファルーク氏は、次世代Aribaを「エージェンティックAIを活用できるよう、SAP Business Technology Platform(以降、BTP)上にゼロから構築している」と明かした。
単なるバージョンアップでなく再構築に踏み切った理由は、企業がAIドリブンの調達活動を実現するためにプラットフォームのモダナイゼーションが不可欠だったからだ。その結果、Aribaのユーザー体験は大きく変わり、購買活動を通しての生産性向上やビジネスのTime-to-Value(価値実現までの時間)短縮の成果を手にすることが可能になった。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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