「野村HD vs 日本IBM」の裁判から考えるベンダーのシステム完成責任、分割契約の場合はどうなる?
野村ホールディングス/日本アイ・ビー・エム 裁判考察:前編
本連載では、ITプロジェクトにおける様々な勘所を、実際の判例を題材として解説しています。今回と次回では、有名な「野村ホールディングス(以下、野村HD)と日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)」の間で発生した損害賠償事件についてお話ししたいと思います。この裁判には数多くの論点があり、その中でも興味深い2点について考えていきましょう。まずは、「多段階契約におけるベンダーのシステム完成責任」についてです。
リスク回避のための多段階契約だが、「それゆえのリスク」も
今回お話しするのは、争点の一つである「多段階契約におけるベンダーのシステム完成責任」についてです。
システム開発では、要件変更への対応や危険の回避などを考慮して、一つのシステム開発をいくつかの契約に分けて実施することがあります。一般的なものとしては、「システムの要件定義」「設計」「開発と単体テスト」「結合テスト・総合テスト」といった開発工程ごとに契約を分けて、それぞれに納入期限、成果物、対価などを定めて契約を結ぶケースが多いです。
こうしておけば、たとえば要件定義の内容が当初の想定から変わってしまっても、設計以降の契約時にそれを考慮した内容にすることができますし、それ以外の様々な条件変更にも柔軟に対応できるメリットがあります。
システム開発全体を一本の契約にまとめると、要件変更やその他の変更、予期していなかったスケジュール遅延などがあった場合に、契約全体を見直すか、要件が変わっても予算やスケジュールを変えられず、ベンダーが苦しんで品質の悪いものが納品されたり、納品されず発注者側にも被害が発生したりといった危険があります。しかし工程ごとに契約を結べば、都度リーゾナブルな機能、納期、予算などを検討して契約できるため、プロジェクトが破綻するリスクを軽減できるというわけです。
ただし多段階契約においては、ベンダー側の責任がよく問題になります。各個別の契約について、成果物と納期をベンダーの債務として定めたとしても、「ではシステム全体を完成させる責任までをベンダーが負うのか」という問題が発生するのです。
多段階ではなくプロジェクト全体を一本の契約で実施するのであれば、そのシステムを完成させることがベンダーの債務となるのは当然のことです。しかし、工程ごとに個別の契約を結ぶ場合、たとえば以下のような時に問題が生じます。
要件定義と設計は無事完了し、要件定義書と設計書は納期通りに、必要な記載を行ったものが納品されたものの、製造やテストで不具合が頻発し最終的なシステムが稼働しなかった。
ベンダー側としては、「少なくとも要件定義工程と設計工程についての契約は全うしたのだから」とその分の費用を請求しますが、発注者としては「最終的なシステムができなかった以上、自分たちが得たものはなく、お金を支払う謂れはない」とこれを拒み、紛争に陥ることが珍しくありません。
これから紹介する裁判でも、こうした問題が大きな争点の一つになりました。多段階契約において、ベンダーはシステムの完成責任まで負うのか。負うとすれば、開発の失敗は「債務不履行」だとして開発費用はもらえませんが、負わないのだとすれば、少なくとも納品した分については費用をもらえるはずです。特に今回の場合、IBMが既に納品した部分がかなり大きかったようです。
裁判所はどのように判断したのでしょうか。事件の概要から見ていきましょう。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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