95%の組織がAI投資“ゼロリターン”……日本の「経営」「政策」2視点で捉えるAIガバナンスの勝ち筋
マッキンゼー・デジタル、Sakana AI、三菱電機、AISI、デジタル庁……各業界のキーマンが激論
企業のAI活用は現在、「検証」から「真の実装」へ転換期を迎えている。AIへの膨大な投資に対し、ROI(投資利益)を生み出せなかった組織が95%にのぼるというデータも示される中、日本企業が「PoC倒れ」を脱し、国際的な競争力を手にするための勝ち筋はあるのか。AIガバナンス協会が2025年11月28日に開催した年次シンポジウムでは、各業界からAIのキーパーソンが集い、「経営」「政策」の2つの視点からそれぞれパネルディスカッションが展開された。AIガバナンスにおける日本の勝ち筋と、AI政策の次の一手について議論された内容をレポートする。
95%の組織が投資効果を得られず……成否の分かれ道は
セッションの冒頭、モデレーターを務めた三菱UFJフィナンシャル・グループの山本忠司氏は、日本企業のAI活用の現在地をパネリストに問いかけた。マッキンゼー・デジタル 日本統括責任者の工藤卓哉氏は、セクター別に見ると利活用が進んでいる領域があると指摘する。「金融セクターや電力事業、通信・メディアといった規制が明確な産業では、むしろ利活用が進んでいる。ファンクション別に見ると、ソフトウェアエンジニアリング領域やマーケティング、カスタマーフロントの領域が増えている」と述べた。
一方で、意思決定における課題もある。「実務データが足りず、PoCだらけで技術ドリブンな実証が目立つ。経営トップのコミットメントがないため、事業との連携ができないまま終わる」と工藤氏は指摘した。
Sakana AIの伊藤錬氏は、グローバルな視点から問題を提起する。2025年の夏にマサチューセッツ工科大学(MIT)が出したレポート「The GenAI Divide STATE OF AI IN BUSINESS 2025」では、膨大なAIへの投資にもかかわらず、95%の組織がROIを創出できなかったという結果が出ている。伊藤氏は「この分断はモデルの品質や規制ではなく、アプローチによって決まる」と説明した。
同氏は三菱UFJフィナンシャル・グループとの融資稟議の事例を挙げ、「銀行がもつすべてのデータを最良のモデルに入れても、融資の可否判断は出ない。モデルとデータの間に、企業のノウハウをAIに教え込む作業や、モデルの使い分けなど、100も200も手を入れる必要がある。そうしてできたものがやっと成功の5%になる」と説明した。
Sakana AIと共に取り組む三菱UFJフィナンシャル・グループの山本氏も、「モデル自体を変えて進化させていかなければ良いアウトプットは出ないと改めて感じた」と実感を語った。
三菱電機でAI活用推進プロジェクトグループマネージャーを務める田中昭二氏は、製造業である自社の視点から暗黙知の課題を語る。製造業では「俺の背中を見て仕事を覚えろ」といった文化がいまだに残っているとし、「ベテランの頭の中にある暗黙知を形式知化し、AIを使いながら伝承できる形にしていく取り組みをしている」と述べる。
工藤氏が冒頭で指摘したデータ整備と経営トップのコミットメントは、AI活用が進む企業に共通する要素だ。“PoC倒れ”から脱するためには、モデルとデータをつなぐだけでは成果が出ないという技術的制約を理解し、企業のノウハウや業務プロセスに深く入り込んだ実装が求められているのだ。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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