Honda、富士電機、YKK APが語る「日本型ものづくり」の次章──PLMとMESのデータ連携が拓く
10/9 IVI公開シンポジウム2025Autumn #02
日本の製造業の強みは「現場力」にある。設計図には現れない微細な不整合を、熟練工やチームリーダーが経験と勘ですり合わせ、高品質な製品を生み出してきた。この現場力を、いかにしてデジタルの力で拡張するか。インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)主催のシンポジウムで、本田技研工業、富士電機、YKK APの3社が語ったのは、PLM(製品ライフサイクル管理)とMES(製造実行システム)をデータで繋ぎ、設計と現場の「断絶」を乗り越えようとする取り組みだった。
Honda:現場の暗黙知を「因果関係」としてデータ化する
年間2,700万基のパワーユニットを生産するHonda。2040年の「脱エンジン車」を見据え、EV時代の生産体制構築を急いでいる。生産技術統括部の福森雅之氏は、自動車業界の現状を「戦国時代」と表現した。
「EV市場は中国勢など異業種の参入が相次ぎ、ビジネスの前提が大きく変わりつつあります」(福森氏)
特に深刻なのは、バッテリーの調達リードタイムだ。製造に2ヵ月近くかかることもあり、従来の「ジャスト・イン・タイム」が機能しにくい。需要予測を誤れば巨大な在庫が経営を圧迫し、不足すれば生産ラインが止まる。
「これまでは、現場のチームリーダーが日々変動する設備や人員の状況を把握し、経験と勘でQCD(品質・コスト・納期)を維持してきました。しかし、バッテリーのような巨大な変動要素が加わる中では、人の調整力だけに頼ることは不可能です」(福森氏)
福森氏が目指すのは、現場の暗黙知を「因果関係」としてデータ化することだ。たとえば、生産変更があった際にどのようなコスト影響が生じるのか。その関係性を可視化し、設計部門と共有できるようにする。
「チームリーダーが暗黙知として持っていた現場の因果関係を見える化し、設計領域にまで引き上げる。MESの導入によって現場データをモデル化し、PLM側でも管理できるようにしていきたい」(福森氏)
富士電機:設計データから製造工程を自動生成し「垂直立ち上げ」を実現
エネルギー機器からパワー半導体、自販機まで多岐にわたる製品を手掛ける富士電機。2026年度の中期経営計画で生産性20〜40%向上を掲げる同社が取り組むのは、設計情報と生産情報のデジタル連携だ。
通常、設計者が作成したE-BOM(設計部品表)をもとに、生産技術者がM-BOM(製造部品表)やBOP(工程表)を作成する。この変換プロセスは属人化しやすく、多くの工数を要するボトルネックだった。
生産技術センター長の山本直樹氏は、この変換を自動化する仕組みを構築している。
「製品ごとの部品構成や製造工程には一定のパターン、すなわち『型』が存在します。過去の膨大な知見を整理しテンプレート化することで、CADデータを選択するだけで自動的に製造データが生成される仕組みを構築しています」(山本氏)
さらに富士電機が目指すのは、デジタルツインを活用した「垂直立ち上げ」だ。自動生成された工程情報をバーチャル空間でシミュレーションし、設備の干渉や作業手順の問題を事前に洗い出す。
「物理的なラインを作る前に、デジタル上で徹底的に検証します。シミュレーションの結果をMESのデータと比較し、計画と実績のギャップを設計側にフィードバックすることで、手戻りを極小化し、初品から量産品質を作り込むことが可能になります」(山本氏)
PLMとMESをデータで直結させ、シミュレーションと実績を双方向に行き来させる。富士電機のアプローチは、設計と製造の間に「検証のループ」を組み込むものだ。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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